あけましておめでとうございます

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「げ、並んでる」 普段は気にも留めない地域の小さな神社なのに、敷地の外周まで列が伸びている。数台分しかない駐車場には、入場待ちの列。 「…どうする? 帰る?」 俺は怖気づく。列に並ぶのってあまり好きじゃない。 「でも、せっかく来たしなあ」 結構信心深いのだろうか。うちの家族も帰省がてら初詣には行っていた気がする。 今年ってお年玉はもらえるのかな、などと思いを巡らす。おばあちゃんに何かあったら、それどころではなくなるだろうが。 「あれ、敦司じゃん」 騒がしい声がして振り返る。 同じ小、中学校だったやつらだ。 あけおめー、とか言ってふざけている。 「晃士もいるんだ。やっぱ仲いいんだな、お前ら」 「なに、晃士のこと知ってんの」 その友達は、知ってるもなにも、と妙な表情になる。 「小学校の頃は、常に敦司と一緒にいたじゃん。お前ら2人対その他大勢でけんかになったりさ」 お前ら2人? けんか? 「…全っ然、覚えてない」 年末年始を一緒に生活することになったと説明するのは面倒臭い。それにガキ扱いされそうだ。 俺が押し黙っていると、晃士が言った。 「幼なじみ、だから。家も近いし」 「晃士は高校どこ行ってんの?」 友達は晃士としばらく話してから、去って行く。 「余計なこと言うなよ」 「だってほんとのことだろ」 順番が来ると、晃士はやけに長い時間、手を合わせている。何をお願いしてるんだか。 そうだよ、本当のことだ。 でも涼しい顔で言われると面食らう。 俺の現実のここ数年の中に、晃士は確実にいなかったのだから。 幼なじみだけど何も知らない。サッカーを続けているってことも、さっきの会話で知ったくらいだ。 晃士は屋台であんず飴を買っている。甘い物が好きらしい。 俺の分だとくれたので受け取る。 これも、子どもの頃の延長の行為なのだろうか。 俺は今は甘いお菓子はほとんど食べないのに。 「何にも覚えてないの? 昔のこと」 そうだと答えるのは気が引けた。 「記憶喪失かも」 冗談で混ぜっ返したつもりが、晃士は仏頂面だ。 なに怒ってんだよ、って昨日晃士が言った台詞だ。 「だって昔のことだろ。お前だって、中学入ってから話しかけて来なくなったじゃん」 口の中が酸っぱくてべたべたする。 「それは…」 境内の出し物らしい、獅子舞のお囃子の音がふいに大きくなった。それに気を取られて言葉が途切れる。 晃士は半分怒って、もう半分は気まずそうに口をつぐむ。 「…やめようぜ。ガキじゃないんだから」 目の前に問題があるわけでもないのに、言い争ったってしょうがない。 ましてや、これからまた同じ家に帰るってのに。 晃士はぷいと前を向くと、あんず飴を口から出すついでみたいに、ぼそりと言った。 「…俺、敦司のこと嫌い」
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