あけましておめでとうございます

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無言のまま歩く。 晃士は先に立って、商店街の中にあるドラッグストアに入って行く。俺は後からついていく。 はぶらしと、その他ガムやスタイリング剤などをつかんでレジにどさりと投げ置く。 何なんだよ。 別に俺だってこいつのこと好きじゃねえよ。 ただ親に言われてしかたなく一緒にいる、それだけだ。 晃士はそのまま自分の家に帰ってしまうかと思ったけれど違った。 また俺の家に来た。 そういえば鍵を取り上げられたと言ってたっけ。 ハリネズミのように怒っている。 ソファの、朝までいた位置に晃士は再び座る。 俺はよっぽど自室にこもってやろうかと思ったけれど、逆にそれは悔しい。 晃士が自分の家に戻りたくても戻れないのに、フェアじゃない気がした。 要するにつまらない意地。 反対側の肘掛けに腰を下ろす。晃士の方に背中を向けて。 だいたい、昔を覚えていたからって何だって言うんだ。 それが何かの役に立つのか? 今は通う学校も違って、接点がないのは本当だし、幼なじみだったってこと自体を否定しているわけでもない。 晃士だって高校に友達はいるだろうし、さっきみたいに「昔の友達」だっているだろう。 意味わかんねー。 すると晃士が、はあ、とため息をついた。 俺の心を読んだみたいに。 いやいや、何だよお前は⁉ 「雑煮作るぞ、雑煮」 腹が立ったせいで腹が減った。 料理なんざしたくもなかったが、食事はしなきゃいけないし、材料を使わなければ腐らせるだけだ。 晃士は口をへの字に曲げたまま俺を見た。 「…晃士」 「何だよ。やらなきゃならないことはやるよ」 「…なんでも、ない」 今、思い浮かんだ。一瞬。 でも何なのかわからない。それは苛立ちや空腹感にすぐにかき消されてしまう。 「沸く前に昆布を取り出すんだってよ」 「色、ついてないよ」 「いいんじゃないの。で、火を止めてかつお節を加える」 嫌いでも口をきかなくてはいけない共同作業は、今の俺たちには救いだ。 いや、晃士はどうだか知らないが、少なくとも俺には。 多少ぎこちなさはありつつも、「やらなきゃならないこと」を進めていく。 大根を切る晃士の手つきは、昨日よりはだいぶましなものの、まだ危なっかしい。 そう思いながらかつお節をぱらぱらと振り入れていたら、 「…いてっ」 「どうした?」 「切った」 「バカ、だから言ったのに」 「大丈夫」 けれど遠目でも血が出ているのが見える。 「見せろ」 触ろうとすると手を引っ込めようとするから、ぐいとつかむ。 そんなに俺が、嫌いかよ。 救急箱から取り出した絆創膏を薬指に巻きつける。 年相応に大きくてごつい左手に、同じような自分の手が触れていることが不思議だった。 「…ごめん」 うつむいて小さな声で言う。 「しょうがねえよ」 「そうじゃなくて」 「え? ああ…」 言わんとしていることはなんとなくわかった。 さっきまでの不機嫌についてだ。 「細かいことは覚えてないかもしれないけど」 そしてそれは俺が悪いのかもしれないけど、と心の中で言いながら言葉を続ける。 「とにかく幼なじみだから今ここに、俺の家で一緒にいるんだから…それで充分だろ?」
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