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俺は何が言いたいんだろ?
晃士を軽んじているわけじゃない。
埋められればいいんだと思う。隙間を。あるいは距離を。
俺が忘れてしまった時間。会っていなかった時間。
「幼なじみっていう存在は晃士以外、いないし」
さっき会ったやつらも言っていた。
晃士といえば俺、俺といえば晃士、みたいなことを。
「…晃士にとっては、どうだか知らないけど」
あー俺、変なこと言ってんな。
その証拠に、晃士が顔を上げて、目をまん丸くして俺を見ている。
「ひとの指にバンソコ貼るのだってはじめてだったし」
他の男に対して傷の手当てをしてやることなんて、まずない。
大けがならまだしも、切り傷程度では、勝手にしろってだけだ。
晃士は再びうつむくけれど、さっきより浅い角度。右手で、薬指に触れている。
俺が不器用に貼り付けた絆創膏。
「…何で」
ぼそりとつぶやく。
何で?
「何でって…」
何でだろう。
「放っとけない気がしたから、かな。あ、お前が弱っちいって意味じゃなくて」
口から出た言葉に自分で驚く。
何を言ってるんだろう? さっきから。
「助けることが当たり前っていうか。考えるより先に手が出てたっていうの?」
そうそう、そんな感じなんだよ。言いながら自分の言葉に気持ちが追いつく。
「…俺も、ほかにいないよ」
かすれた、少し苦しそうですらある声で晃士は言う。
なんか俺、変だ。
今までこんな風にほかの奴のことを考えたり、見つめたり、自分の感情について考え込んだり、したことなかったのに。
世界中に晃士と俺しかいないみたい。
「俺も、敦司しかいない」
これが、幼なじみっていうことなのだろうか。
この、ちょっと窮屈にはまった2ピースきりのパズルみたいな感覚。
「…晃士」
唇を開きかけたとき、大鍋でお湯が沸くふつふつという音で俺は我に返る。
網杓子なる物がどこにあるかわからず、かつお節の大半はすくい切れずだし汁に散らばったままになった。
「普通に美味しくない?」
「うん。うまいよ」
柚子の皮も、面倒だったけれど刻んでちゃんと浮かべた。
「でも、うちのお雑煮と全然違う」
「そうなの?」
「地域や、各家庭ごとに違うらしいよ」とスマートフォンの画面を見せてくる。
「うちのは味噌味のと、あんこのやつ」
「そういえば、ばあちゃんちのは魚が入ってた」
「これじゃない? 岡山県とか福岡の」
さっき何か言いかけなかったか?
俺も晃士も。
でも何なのかわからなくて、また俺は混乱しかける。
表面上は他愛ないやりとりをしながら、もやもやが残り続けている。
「…餅、もういっこ食う?」
俺はうまくしゃべれているのだろうか。
「うん」
晃士はさくらんぼの形の羊羹をひょいひょいつまんで食べている。
「お前これ好きだと思った、めっちゃ甘いから」
気にしているのは俺だけみたいだった。
だから気にするって、何を?
堂々巡りだ。
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