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今年は、久しぶりに
大根、にんじん、里芋。鶏もも肉、小松菜。なると。かずのこ。
さくらんぼの形の羊羹って、スーパーで売っているんだろうか?
毎年家で両親と食べているおせち料理を思い出しながら、俺はスーパーの店内をカートを押して歩いている。
野郎と2人だから、食べる物なんて何でもいいと思ったけれど、昼過ぎに母親から連絡があった。
「晃ちゃんに美味しいもの食べさせてあげてね。」
ご丁寧に、材料のリストやレシピまで送ってきた。
「やだよ、めんどくさい」と返信すると、「お金はいくら使ってもいいから、年越しそばやお雑煮をきちんと食べて。帰ったらレシート確認するから」だって。
挙げ句、ちゃんとしないなら春休みに行く予定のライブに行かせないと脅してきやがった。
それで仕方なく今、年末の、人でごった返すスーパーに来ている。
「『食べさせて』って、晃士は俺と同い年だろうが」
愚痴は止まらない。
混んでいると言っても小さな子ども連れの家族や老夫婦が多く、俺たちみたいな若い男なんてほとんどいない。ましてや、2人組の高校生なんて。
さっきまで隣を歩いていたはずの晃士がいないので振り返る。
「…おいっ!」
晃士はパーカーのフードをかぶったまま、片手に毒々しい色合いの菓子の小袋とポテトチップスの筒をぶら下げている。
「余計なもん買うなよ」
「俺の親も金出してんだからいいじゃん」
持っていた物を、カゴにどさどさと投げ入れる。
そんな入れ方したら、鶏肉のパックが破れるだろうが。
「敦司」
「何だよ⁉」
「なに怒ってんだよ?」
だいたい俺は嫌だったんだよ。
元・幼なじみと同居生活だなんて。
◇ ◇ ◇
「ウチはおばあちゃんの様子見に行かなきゃいけないし、陽子ちゃんはカウントダウンのイベントに参加するってことなら、ちょうどいいじゃない」
クリスマスの翌日、突然の提案だった。
いや、提案じゃない。決定事項として伝えられた。
「ちょうど良くねえよ。ガキじゃあるまいし、留守番なら1人で出来るって」
「未成年だろう? 敦司はまだ」
いつも俺と母親の言い合いにはあまり口を出さない父親も、なぜか乗り気だった。
「そんなに心配ならどっちかが残ればいいだろ」
「そういうわけにはいかないでしょ、お義兄さんには2人で行くって約束したし、手伝うこともあるんだから」
あんたにはわからないだろうけど、と母親は親戚がどうの、病院の付き添いがどうの、と話し出す。
俺だっておばあちゃんのことは心配だったから、そこについては反論しない。
ただ、だからって。
「あいつにはもう何年も会ってないし」
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