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こうかんこ。
澪ちゃんは、とっても綺麗な女の子だった。
クラスで一番の美人。長い艶々の黒髪で、小学生なのに大人の女の人みたいな金色のヘアピンが似合って。化粧をしているわけでもないのに唇がぷるっとピンク色で、肌が白くて、少女漫画のヒロインみたいに目がぱっちりしている。
容姿だけでも特上なのに、その上背が高くて運動神経抜群、成績優秀ときたものだ。地味子なあたしが、ちょっともやもやしたものを感じてしまうのは仕方ないことではないだろうか。
これがクラスで苛められているとか、クラスで孤立しているとかならあたしもちょっとは溜飲が下がったものの、実際はクラスでも友達が多いしいつも人に囲まれているような人気者である。ついでに先生受けもいい。なんだその完璧超人は、あたしにもその才能の半分くらい分けてくれよと思ってしまう。
「澪ちゃんはいいよね」
モヤっとした気持ちをどうにか押し殺して、文月ちゃんとそれなりに親しくしているあたしである。ある日の放課後、なんとなく教室で二人になったタイミングで声をかけたのだった。
「苦労することとか、ないでしょ」
「ええ?何で何で?」
ざざざ、とランドセルの中に入っていた砂をゴミ箱に捨てながら、澪ちゃんは笑った。
「私、そんなに苦労したことないように見える?」
「見える見える。だってあたしと違って美人だし、頭いいし。……いっつもみんなにチヤホヤされてさ」
あ、しまった。最後の言葉に、露骨に嫉妬が滲んでしまった。
澪ちゃんに気づかれたかなと思ったが、彼女が特に不審に思わなかったようでにこにこしながらランドセルを雑巾で拭いている。綺麗になった中を覗き込んで満足そうだ。
「そんなことないよ。クラスの雰囲気がいいから、みんな私と仲良くしてくれるだけ。……ちょっと要領良く頑張ろうとしてるだけで、私より勉強できる子もいれば、運動神経いい子もいるよ」
それはイヤミですか、と腐りたくなってしまう。テストではいつも百点満点、リレーではいつも選手に選抜されるというのに。
それに引き替え、あたしは学校の簡単なテストでさえ九十点を取れればいい方で、リレーの選手どころかかけっこではいつもビリッケツだ。彼女にできて、あたしにできないことなんか一つもないと本気で思う。
「……溝口さん、そんなに、私が羨ましい?」
そんなあたしの納得いかない雰囲気を悟ってか、澪ちゃんは苦笑して言ったのだった。
「じゃあ、今日このあと時間ある?」
「え?時間?あるけど」
「私、ちょっとした魔法を知ってるの。……溝口さんもやってみない?」
綺麗になったランドセルにせっせと教科書を詰め込みながら彼女は笑う。
「一日だけ、体を交換する魔法があるの」
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