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魔法、なんて。彼女は意外とメルヘンなんだな、と少しだけおかしかった。
もう私達も六年生だ。杖を降っただけで空からお菓子を降らせるだとか、箒に乗って空を飛ぶとか、そんな魔法がファンタジーの世界にしか存在しないことくらい知っている。この歳になってまだそういう可愛いものを信じてるのかと思ったのだ。
ところが、彼女が言った魔法とは、あたしが想像しているものとは随分違っていた。
「す、すごいところに住んでるのね」
学校から徒歩五分。その場所にちょっと大きなお屋敷があることは知っていたが、まさかそこが澪ちゃんの家だったとは。正面の門には、確かに“黒須”という彼女の苗字と同じ表札がかかっている。
「由羅さん、あれをやるから」
「かしこまりました、澪さん」
お出迎えしてくれたメイドの女の子に案内されるがまま、広い広い庭へと入る。彼女に連れられて到達したその場所は、綺麗な石畳が敷かれた場所だった。その上に、水色のインクで魔方陣のようなものが描かれている。
「ここで、ちょっとした儀式をするの」
澪ちゃんはあたしの手を引っ張って、魔方陣の中央へと導く。五芒星のような、星マークのど真ん中に。
「するとね、一日だけ私と溝口さんの体を入れ替えることができるんだよ」
「ほ、ほんと?」
「うん。明日から一日だけ、自動的に入れ替わって、翌日の朝には元に戻るの。溝口さんは、私が羨ましいんだよね?私になってみたいんでしょ?だったら、体験させてあげる」
そんなこと本当にできるのだろうか。完全に眉唾ではあったが、それ以上に屋敷の雰囲気と、本格的な魔方陣に圧倒されていた。魔法なんてあるわけないと馬鹿にしながらも、やっぱりあたしも小学生の女の子なわけで。本当に魔法があるなら挑戦してみたい、という欲望に勝つことはできなかったのだった。
「や、やってみたい」
何より。
完璧な美人で、完璧に頭が良くて、完璧に運動ができて、完璧にみんなにモテモテで。
そんな澪を、体験してみたい。
「あ、あたし……澪ちゃんに、なってみたい」
そんなあたしの願望を、澪ちゃんは理解していたのだろう。にっこりと笑って、じゃあやってみましょう、と言ったのだった。
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