序・そして、魔女は部屋を出た

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序・そして、魔女は部屋を出た

 魔女が生まれてからしていることは、ただ本を読むことだった。  魔女が生まれた場所には本しかなく、食べることや寝ることを覚えるよりも先に、本を読むことが魔女の全てだった。  哲学書、教養書、図鑑、聖書、歴史書、探検記、手記、日記、奇書、翻訳書、魔術書、小説、手紙。魔女のいる部屋には、読むことができるなら、あらゆる書物が存在していた。    床も壁も本によって創られた部屋の中で、ひたすら本を読み、読み終えた本は魔女の知識として彼女の中に積み上がっていった。  おそらく、人が一生掛かっても読み終えることができない本の数だったが、幸か不幸か、魔女には可能だった。  不老不死。彼女を魔女たらしめる神秘。  魔女は本を読むことによって、自身が不老不死であることを、故に自身が魔女であることを理解していた。  そして、魔女は部屋の本を全て読み終えた。  読み終えた魔女が、最初に思ったことは「見てみたい」だった。  知識として、この世に存在する、あらゆるモノについて知っているが、実際に触れたことや見たこともない。  ましてや、存在することすら希少なモノがこの世にはあるという。  純粋な好奇心が魔女を突き動かす。魔女は本で創られた部屋から出ることを決意した。  知識は武器だ。扉も窓もない部屋から出る方法を、すでに魔女は知っていた。
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