Growing up ③

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Growing up ③

離宮の入り口で馬を降りた三人は、リーラを前に直立不動である。時刻は夜遅く、そろそろ、新年に変わりそうな時間だ。 三人の中で、一番愕然としているのはランディだった。リーラ!と手を広げ近寄っても、ふわっと背を向けられ、かわされてしまった。それが相当ショックのようだ。 「どこに行ってたの?こんな時間まで!何?お酒くさい!まさか、飲んでないよね?ネロ!アル!まだ成人になってないでしょ!」 リーラから質問攻めを受けている。離宮の入り口から中には入れてもらえていない。 「飲んでないよ!ちょっと…あってさ、」 「あ、あのね、アクシデントっていうか」 双子がしどろもどろにリーラに答えている。悪知恵は働くが、急な対応は出来ないらしい。ランディは何も言えず直立不動のままでいる。 「ランディ…一緒にいたんでしょ?どういうことか教えて」 「はい…」 腕を組み、胡乱な目でリーラはランディを見ている。針のむしろとはこのことだろうとランディは思い項垂れていた。 「とりあえず、三人まとめて湯浴みに行ってきて!お酒くさい!あっ、そうだった。王宮の湯浴みは今掃除中で使えないから、離宮の湯浴みを使って。ほら!早く!行ってきて!」 「「「はい…」」」 二度も『お酒くさい』とリーラに言われ、三人急いで湯浴みに行く。 王宮を出て街に向かう時とは違い、双子もしょんぼりとしていた。 ちゃぽん… 頭からつま先まで綺麗に洗い上げ、三人並んで湯に浸かる。王宮の湯浴みと違い、離宮は少し小さめに造られているから、男三人で入るのがやっとの大きさだ。 全体にカラフルなタイルが敷き詰めてあり、かわいらしい印象の湯浴みは、リーラのイメージそのものである。 「だから…言ったろ?リーラに内緒は良くないんだって。結局最後は俺が怒られるんだから。お前らも責任取れよ!」 湯浴みは声が響くから小さな声でランディが双子を叱る。 「とりあえずな、ここから出たら正直に言うんだぞ。明日は国の祭りだから前夜祭が見たかった。そしたら何だか知らないけど、猿が暴れ出してそれを捕まえてた。それで泥だらけになったけど…って、おい!お前ら聞いてるのかよ!何で黙ってんだ」 ランディが二人を助けるために色々と助言をしてあげているのに、黙って湯の中で二人は真っ赤になっている。 「あのさ…ランディ、昨日ここでリーラと一緒に湯浴みした…よね?」 「すごく…ものすごく言いづらいんだけど…僕たちさ、水の声と風の声が聞こえるんだよね」 双子の言葉を聞き「へっ?」っと間抜けな声をランディは響かせてしまった。と、同時に双子の能力を思い出した。 そうだった。双子には水と風の声が聞こえている。昔からそうだった。そしてここは湯浴みであり、昨日ここでリーラをぐったりさせるほど抱き合い、睦み合っていた。 しかも、この湯浴みは睦み合うのを前提で造られているため、王宮の湯浴みとは少し違う。その造りに興味津々といったところだろう、双子もキョロキョロと辺りを見回りしている。 そして恐らく、水と風は昨日のを今、双子に訴えているのだろう。何を伝え、話をしているのかは、ランディだけはわからない。 「何?どうしたの?大丈夫?」 さっきの間抜けなランディの声が大きく響いたのか、リーラが湯浴みの外まで様子を見にきてしまい、声をかけられた。 「だ、大丈夫!リーラ、すぐ行くから!」 湯からザバっと機敏な動きで立ち上がり、ランディが外にいるリーラに声をかけた。 「ランディおっきいよね?それ」と、ネロがランディの股間を指さしている。 「僕たち大人だから大丈夫。二人がしてることもわかってるから…」と、アルが大人な発言をしている。 「あー…」と、頭を抱えてランディはまた湯の中に入った。 「なぁ…聞きたいような聞きたくないような感じだけど、水と風は何て言ってる?」 ランディからの問いに二人は複雑な顔をしていた。 「えっと…凄かったって言ってる。激しかったって…水もバシャバシャ弾けて楽しいかったけどって…」 「あ、でもリーラは嬉しそうだったって言ってるよ。いつも二人はラブラブだって…えっと…」 二人の言葉を聞き一瞬ランディは無言になり、天を見上げた。 「あー…」 ランディは、知らない間にため息が溢れていた。本日何度目のため息だろうか。 「いいか、この湯浴みの中の水と風の声のことは、絶対リーラには言うなよ」 双子はコクコクと頷いていた。 ◇ ◇ 湯浴みから上がるとリーラが待ち構えていた。三人共、酒を飲んでないとわかり、リーラの機嫌も治ってくれた。 「さあ、みんなこっち来て。ここで話を聞くよ!もうすぐ新しい年になるから、今日は四人で寝ようね。久しぶり!ワクワクする」 そう言うリーラは三人を離宮のベッドに連れて行く。双子はまた複雑な顔をしていた。 そりゃそうだろう。湯浴みではランディとリーラの睦み合いを水と風から聞き、湯浴みから出てきたらリーラが、今日は離宮のベッドに四人で寝ると言い出した。きっと双子には拷問に違いない。 何が楽しくて親代わりのランディとリーラのベッドで共に寝ないといけないんだと、思っているはず。しかも双子は思春期だ。一番こういうのに多感な時期である。 だけどリーラはそれに気がつくことがなく、久しぶりに四人が揃ったことが嬉しくワクワクとしている。いつまでも、双子は昔のままだと思っているらしく、一緒に寝れるの嬉しい?などと、無邪気に笑顔で確認している。 「じゃあ、どうやって寝る?それで今日の話も聞かせてよ」 「えっと…俺は今日は端でいいかな。ほら、ネロとアルが真ん中でさ。リーラも久しぶりだろ?二人と一緒に寝るのは」 「「えっ?」」 ランディの言葉に双子はギョッとしているのがわかる。昔は二人共、リーラとランディの間に寝たがっていたのに、今では「それはちょっと困る」と顔に書いてある。助けてくれよと目でランディに訴えている。 「よーし!じゃあ二人は真ん中に来て!じゃあ教えて、何があったの?もう、心配しちゃったじゃない。ほら、もっとこっち来て!ぎゅってしてあげようか?」 リーラはウキウキとして双子に質問攻めをしている声を、ランディはベッドの端で聞いていた。リーラが楽しそうならそれでいい。 今日は疲れた。 リーラと双子の邪魔にならないうちに寝よう。寝て起きたら年が明けているはず。新年がもうそこまできているのだ。 来年はいい年になりますようにと、願いながらランディは目を閉じた。 ◇ ◇ 翌朝起きると双子の姿はもうなかった。 リーラは、すやすやとまだ寝ている。 二人はひと足先にここから逃げ出したようだ。ゆっくり寝ることも出来ず、きっと夜も何度か目が覚めてしまったのだろう。 「う…ん、ランディ?起きたの?」 リーラも目覚めてきたようだ。リーラの唇にチュッとキスをして「おはよう」とランディは声をかけた。 「リーラ、そういえば昨日はなんで戻ってきたんだ?何か問題があったか?」 ランディはそれが気がかりであった。リーラ、もしくは村に何かあったのではないかと考えていた。 「ううん、何もないですよ。村の手伝いが思ったより早く終わったから、みんなで戻りましょうかって話になって戻ってきただけです」 「そうか、それなら良かった。安心した」 リーラを引き寄せ頬と首にキスをする。 「帰ってきたらみんないなくてびっくりしました。大臣を呼んで理由を聞いてもハッキリ言わなくて…心配しちゃった。もう、街に行くんなら言ってくれれば心配しなかったのに」 「ごめんな。あいつらも大人になってきて、色々と世の中を見たいと思ってるんだよ。気持ちは凄くわかるから、連れて行ったんだ」 「今日は祭りの本番だから、後で四人で街に行きましょうね。それと昨日ご迷惑をおかけした所に行ってくださいね。僕からも謝罪するから」 部屋の隅に『水のボール』と、『籠』が置いてあった。朝早くから双子が作ったのだろう。小さい頃はよく作ってくれたプレゼントだが、大きくなってからは中々見なくなっていたが、今日は久しぶりに見ることが出来た。 「リーラ、ほら、あそこ。あれわかるか?あいつらから、リーラへのプレゼントだ。ああ、水のボールはリスの型になってるな。籠はリーラが手に取ると弾ける仕掛けになってるはずだぞ」 わあっとリーラがベッドから降りて近づく。籠を手に取るとパンっと音がして花びらが宙に舞った。リスの型をした水のボールはプルプルと揺れている。 「リーラ、おいで。街に行くまで俺に時間をくれよ」 街に行くまでランディとリーラはベッドの上で過ごすことにした。 「リーラ、新年になったな。今年も思いっきり君を愛するよ。我が王妃」 「僕も、ランディを愛し続けます。今年もどうぞよろしくお願いしますね」 豊かな国に、ゆっくりとした時間がやっと流れる。 新しい年をまた君と迎えられてよかった。 毎年そう思うよ。 リーラの顔を覗き込みながら、ランディが囁いていた。 end
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