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嘘つき、という彼の言葉が、的を突いていたから。
「……ごめん、買って欲しいものがあったの?」
私がそう言うと、海斗は少し空気を和らげて言った。
「買って欲しいものじゃなくて、お願いなんだけど。
僕、お母さんとずっと一緒にいたい」
え、という言葉が、喉の奥に引っ掛かって止まった。
「お母さんと玲央奈ちゃんと、三人で暮らしたい。
気づいてたんだ。僕と玲央奈ちゃんは兄妹でしょ? だから、いいじゃん。兄妹が一緒に暮らしたって、おかしくないよ」
それではいけない、寛人に怒られる。無意識にそう思ってから、ふと気づく。彼が言った名前に、寛人が入っていないことに。
「お父さんは、一緒じゃないの?」
私が尋ねると、彼は少し視線を泳がせた後、私にぎゅっとしがみついた。
「お父さんは、いい人だけど、ちょっと怖いから」
「……そっか」
頷いて、海斗を抱きしめる。
できることなら、海斗と玲央奈を一緒にしてやりたいけれど、寛人が許すのだろうか。
ここまで来ても彼に煩わされている自分が嫌になる。そう思った時、海斗の隣に玲央奈がやってきた。
時々この子は、知らない間に近くに来ている。
彼女も海斗と同じように私にしがみつき、こちらを見上げた。そして。
「おかあさん、すき」
驚いたなんて言葉では収まらないほど、驚いた。初めて。この子が私に、言葉を話した。好きと言ってくれた。自分が何かを成すよりももっと大きく、何物にも代えがたい感動が胸を占める。
大きくなっていたんだ――と思う。今まで、玲央奈と話していて、話が進展しないことばかりだった。同じような単語を何度も口ずさむだけ。だから、この子は全く成長していないのだと、なんとなく思い込んでいた。
でも違う。玲央奈は玲央奈なりに、必死にもがいて、ここにいるんだ。
再び、目頭が熱くなる。けれど今度の涙は、さっきのものとは違っていた。
この子たちがいてよかった。私たちが家族でよかった。紛れもなく、そう安心していた。
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