1/2
前へ
/11ページ
次へ

 駅前の本屋までは結構な道のりがあって、着くころには、十二月の空はすでに暗くなっていた。  この本屋は広いから、いつも海斗からは目を離さないようにしていた。  けれど今日は、どうにも気力が出ない。体から何かがあふれ出しそうで、それを止めるのに必死で、海斗のことにまで頭が回らない。 「海斗、お母さんはお店の外で待ってるから」  彼は一瞬不思議そうに私を見上げた後頷いた。そして玲央奈を引っ張るようにして、店の奥に入っていく。それを見届けてから、私は入り口から外へ出た。  冷たい、今年最後の風が吹く。寒さに体を震わせながら、ぼんやり考えた。私はこれからどうなるのだろう。海斗も玲央奈も失って、一人になった人生に、面白味は見いだせるのだろうか?  そう思ったら、居ても立ってもいられなくなった。コートのポケットに手を突っ込み、ひたすら歩いていく。すれ違う人全てが、自分のことを奇異な目で見てくるような気がして、尚更足が速くなった。  特にあてがあったわけではないけれど気付いたら、川に着いていた。昔から、困るとここに来ていたのだ。  欄干にもたれかかって眺める街。色々な思い出が蘇ってきた。玲央奈がダウン症とわかり、やりきれない気持ちになった時、寛人に冷たくされるようになった時。どんな時もいつも、私はここにいた。この街のこの橋で、ずっと踏ん張ってきた。  私はどこで間違ったんだろう。それすらもわからないまま、五里霧中で手を伸ばしてここまで来た。でも。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加