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 もう無理だ。  ごめんなさい、と思う。心の底から。海斗に玲央奈に寛人に。私はきっと、母に向いていなかったんだろう。  寛人には、認められない。ごめんで済むなら警察はいらないと。けれどそれも、もういいんだ。  私は、自分で望んだものに対する代償をすべて無責任に放り投げて、人生で一番苦しい思いをしたこの場所で死ぬ。  今年最後のセールを始めます、という声が、遠くの商店街から聞こえる。それを聞いたら、本当に、今日で最後なんだという気がした。  人生も、今年も、すべて、今日という日で幕を閉じる。その時やっと、頭の痛みが消えた。鼻の奥がツンとなって、涙があふれた。 「あれ?」  玲央奈ちゃんと一緒に外に出たら、待ってるはずのお母さんがいなかった。  来るはずのお母さんが来ないのは、よくあることだ。保育園でもそう。だから別に、そんなに珍しいことじゃない。  けれど、今僕の周りには、保育園の先生みたいな頼れる大人がいない。一人ぼっちだ。  この広い街で、大晦日の夜に、一人ぼっち。  いつもそうだ。誕生日でも、お母さんは忙しいから。  それでももう少し――隣にいたかった。一緒に「誕生日」の上に座っていて欲しい、という思いが拭えなくて、思わず下を向いたその時。  手に暖かいものが触れた。横を見れば、玲央奈ちゃんが、いつも通りの顔で笑っている。 「いないねえ」  小さく、呟く。それを聞いたら、ハッとした。今この場で、一番小さいのは玲央奈ちゃんだ。僕の方が大きいのに、俯いてどうするんだ。  しっかりしなきゃ、と思う。だって僕は、玲央奈ちゃんのお兄ちゃんだから。 「玲央奈ちゃん、探しに行こうか」  僕が言うと、彼女は微かに頷く。それに微笑んで、 「大丈夫、会えるからね」  安心してほしかった。玲央奈ちゃんがいると、僕はこんなにも心強い。だから彼女にも、同じようになってほしくて。  一人ぼっちじゃない。この子がいる。だからきっと大丈夫、お母さんに会える。会って、そして言うんだ。  僕の誕生日プレゼント決めたよって。
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