ツバメが街を飛び回った日

1/5
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 灰色の空。冬の空。  渡り鳥なんていうのは、とっくの昔に暖かい国へ飛び立っているはずでした。  でも、そのツバメはまだ、この寒い寒い町にいたのです。翼が折れて弱々しく地面に横たわっていました。  最初、私がそれを見つけたとき、目を凝らしました。  それがツバメだと認識したとき、私はその場から離れようと思いました。  でも、出来ませんでした。  私には帰る家も何もありません。  必然的に、私のように帰る家のない人と、このツバメと幸福の王子がいる広場に留まるしかないのです。  私は少しの間、ツバメと一緒に暮らしてみることにしました。  パンをひとかけらつまみ、ツバメの嘴に差し出しました。  すると、弱々しいながらも、ツバメは目を開きパンを啄み始めます。  私は少しほっとして、残りのパンを食べます。  いつものように、幸福の王子を眺めながら。  幸福の王子というのは、この国の王子の像です。全身が金箔に覆われて、瞳には青い宝石を埋め込まれ、身につける装飾品にはあらゆる宝石が散りばめられています。  きっとこの世の贅の限りを詰め込んだのでしょう。  私は眺めるものがないので、彼をなんとなく眺めています。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!