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僕の家の近くに、普段妻の里美が一人で買い出しに出掛けるスーパーがある。
そこに家族三人で買い物に行くことになった。息子の優人はパパとママが揃っての買い物がよほど嬉しかったのか、僕と里美の手を強く引く。
夕方、買い物客でごった返すそのスーパーに、優人は躊躇うことなく早く入ろうよとばかりに僕たちを急かした。
里美と僕は顔を見合わせて、思わずクスっと笑った。
里美が何気なくシーチキンの缶詰を買い物かごに入れる。優人はそれを見て「パパの好きな食べ物だ」と僕に言った。僕は「そうだよー」と答えると、優人は僕に「パパはなんでそんなシーチキンが好きなの?」と聞いてきた。
「パパはね、昔一人暮らしをしていたとき、よくシーチキンの缶詰を開けて食べていたから好きになったんだよ」と答えた。続いて優人は「そっかー、じゃ、ご飯と一緒に食べたの?」と聞いてきた。
僕は思い出す。
あの当時は空腹を誤魔化すために、手っ取り早くシーチキンを食べていたな、と。だから、「缶詰だけで食べていたんだよ。シーチキンはね、いつも夜遅くに食べるようだったから」と答えた。
優人は少し怪訝な感じで、「なんで夜遅くなの?」と聞いてきた。僕は「仕事で忙しくて、帰ってからもやることがあったから夜遅くにお腹が空いてきて食べたくなったんだ」と答えた。
僕のその答えに、優人は「ふーん、そっかー」と言った。僕たちはもう一度手を繋ぎ、スーパーをあとにした。
その日の深夜、僕は自分の部屋で今日の仕事の残りをしていた。
すると「パパー、起きてる?」とドアの向こうから優人の声がかすかに聞こえた。僕は「起きてるよ」と答えながら、そっとドアを開けた。
見ると、優人の小さな手にシーチキンの缶詰が2つ。
優人は「パパが起きてたら、夜遅くにパパと一緒にシーチキンを食べたいと思って・・・」と小さな声でそう言った。
僕は優人をかわいいなと思った。優人は僕と同じことをしたかったのだとわかったからだ。
僕は「そっか、優人はパパと同じことがしたかったんだね?」と言うと、優人は僕の目を見て、とても嬉しそうに「うん」と答えた。
僕は「分かった、ママにはこんな夜遅くに食べたのは内緒だぞ」と言って優人からその2つのシーチキンの缶詰を受けとると、音が出ないよう慎重に、そっとその缶詰を開けた。
優人と僕は、それらをそれぞれ一口ずつ食べた。
優人が少しニコッと笑って、僕の顔を見ながら「美味しいね」と言った。僕もその優人の顔を見て「美味しいね」と少しニコッと笑って言った。
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