過去編

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「もし、お仕事を頂けないのでしたら、このお屋敷を出させてはいただけないでしょうか」  誕生日を迎えてひとつ歳をとった雪也は、何か贈り物をしてあげようと言った弥生にそう告げて深く叩頭した。弥生や、側に控えていた優と紫呉は驚いたように目を見開いていたが、雪也はその言葉を撤回するつもりはない。言葉だけを見ればひどく傲慢な要求に聞こえるだろうとはわかっていたが、雪也には他にどう告げれば良いかわからなかった。 「確かに望みを聞いたのは私だが、急にどうした? 何か嫌なことでもあったか?」  予想もしていなかった願いに動揺は隠せないが、それでも弥生は努めて冷静に言葉を紡ぐ。一生仕事を与えず己の目の届く範囲で穏やかに笑っていてほしい。そう願う気持ちが僅かもないとは決して言えないが、それでは雪也も生きづらかろうことは弥生にも理解できる。それゆえにゆくゆくは優と一緒に己の補佐でもしてもらおうか、などとボンヤリ考えてはいたが、それでもまだ大人になったばかりなのだからこれから本格的に考えればよいと思っていた。だが、弥生が考えるよりもずっと雪也は現実主義者で己に厳しい性格であったらしい。
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