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相変わらず趣味の悪いことだ、と弥生は杯を口に運びながらため息を飲み込む。おそらくは大枚が注ぎ込まれたであろう酒や膳は美味なものだが、そこかしこで聞こえる女の婀娜な声と男の下卑た笑い声がすべてを台無しにする。
酒を手に持ちながら胸元どころか裾もはだけ膝が露わな女たちが松中や客である男達にしな垂れかかり、男達は欲を隠そうともせず女の足に触れたり襟元に腕を入れたりとやりたい放題だ。弥生や父にも女が付こうとしたが、二人は断って手酌で飲んでいる。とはいえ、その身に触れられていないとはいえ聴覚や視覚などというものは完全に塞げるものではない。あまりに享楽的なこの空間に、覚悟していたとはいえ居心地の悪さを覚えチラと父に視線を向ければ、父もまた無言で酒を飲んでいるものの眉間にクッキリと皺が刻まれていた。
「春風殿とご子息は、あんまりこの女子たちはお気に召されんかぁ?」
渋い顔をしながら無言で杯を進める二人に気づいた松中が、真っ赤な顔でヘラヘラと笑いながら、少々呂律の回っていない口でそのようなことを問いかける。
勤勉実直で知られている春風がこのような狂乱を好むはずなど無いと皆わかっているはずであるのに、酒が入ると気が大きくなるのか、好奇心が抑えきれなくなるのか、この色に関しては堅物な春風親子が女の婀娜な姿にどのような反応をするのかと興味津々のようだ。その堅物さを揶揄うような松中の言葉に、参加していた他の客もゲラゲラと笑い声をあげる。
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