過去編

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「そんなことよりも、弥生が姫宮様と面識があるのならこれから宮様がお寂しくないよう時折顔を出してはくれぬか? 義母上や奥の者達には余から説明しておこう」 「それは大変栄誉なことでございますが、姫宮様がお寂しくないようにと思われるのであれば上様がおそばにおられるのが一番でございましょう」  年の近さも相まって気安く言う弥生に、茂秋は恥ずかしそうに再び咳払いをするが、嫌な気分ではないらしい。静宮に渡された茶で喉を潤しながら、困ったような瞳で弥生を見ていた。 「まったく、そなたは……。相変わらず口が減らぬな。それがそなたの良いところでもあるのだが」  カチャリと茶を置いて、茂秋は小さく息をつく。 「もちろん、余のすべてを捧げるつもりじゃ。じゃが余のいない時には必ずお守りしてくれ。余はそなたの心を、信じている」  まだまだ年若い弥生は、彼の父を超えることはもちろん、他の大臣の方が狡猾さも含めれば何倍も上手であるだろう。今はまだ。しかし茂秋は他の誰よりも弥生の心を信じていた。己が間違わない限り、悪道に落ちない限り、弥生は己を裏切らないという絶対の信頼。それを茂秋に抱かせるほどに、弥生は清く真っすぐだ。彼にも欲はあるだろう。だが他の者と違い、その欲は黒くない。  真っ直ぐに信頼の言葉をぶつけてくる茂秋を前に、弥生はほんの少し微笑んだ。 (まったく)  それを真っ直ぐに言えるあなたこそが、本当に清いと言うのだろうに。 「上様から頂いたご信頼に、この弥生、必ずお応えいたしましょう」  畳に手をついて、弥生は深々と頭を垂れる。その美しい姿に静宮は眩しそうに見つめ、茂秋は満足そうに笑みを浮かべながらひとつ頷いた。
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