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「そうさなぁ、女子ではお気に召さんと言われるなら、どうじゃ? 少し変わり種をご紹介しましょうかのぉ」
ニヤニヤと笑う松中に、父は鋭い視線を投げて「いらぬ」と低い声で告げるが、酒で気の大きくなった松中は止まることを知らず「まぁまぁ」などと言って傍らに侍っていた女になにやら指示を出した。はぃ、と甘ったるい声で頷いた女は立ち上がり、胸元も裾もはだけたまま部屋を出ていく。そしてしばらくするとしゃなり、しゃなりと衣擦れの音を響かせて戻ってきた。
「お連れしましたぇ」
女が傍らに立っていた者の背を押して中に入るよう促す。女たちとは違い、きっちりと衣を纏ったその者に、松中は笑みを深めた。
「おぉ、こっちじゃこっちじゃ。はよう春風様にご挨拶せよ」
促されて、きっちりと衣を纏った者は父と弥生の前にちょこんと膝をつき、ゆっくりと頭を垂れた。
「ゆきやです。どうぞ可愛がってくださいまし」
三つ指ついたまま顔を上げたゆきやは、幼くも美しい少年だった。この部屋にいるどの女にも勝る美貌に、結われることなく背に流れる艶やかな髪。真白な肌に桜色の唇を持つ彼は、きっちりと衣を着ているというのに――否、だからこそ尚更に誰よりも淫靡に見えた。
「この子供は……?」
ゆきやと名乗ったその少年は、とかく異様であった。年のころは少年と青年の間――すくなくとも成人している――くらいであろうに稚児が纏う鮮やかな水色の水干を身に着け、身長が低いのは個人差故かもしれないが、ひどく動作が幼い。その美しすぎる顔に僅かの感情も浮かんでいないというのに、〝可愛がって〟という言葉だけは淀みなかった。まるでわざと少年の衣装を纏わせた青年の精工なる人形が動いているというような、どこかちぐはぐで人間味を感じない。
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