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「おや? ご子息殿は女子より男の方がお好みか?」
それは決して色欲ではないと傍目からも明らかであろうに、松中は今まで無であった弥生が少しでも反応を示したことに満足したのか、次々と杯を干しながらベラベラと喋り始めた。
「その者は両親のいない孤児でのぉ、その子の叔父が己が可愛さによこした穀潰しでしてな。本来なら何の役にも立たぬ男など無用であるが、ここを追い出しては行く場所がない。せいぜい河原で野垂れ死ぬが定めとなれば哀れと思うて引き取っておるのですよ。そのためこうして、仕事を与えておるのです。どうです? 適任でございましょうや?」
まるで仕方なく引き取っているだけで、本当なら今すぐにでも手放したいのだと全身で言い募る松中であったが、それが本心でない事など誰の目にも明らかだった。松中は叔父が差し出したと言っているが、そうなるように仕向けたのは松中本人だろう。大方、罪を許す代わりに養い子を差し出せとでも言ったのか。実子でないとあれば、叔父も差し出すに躊躇いなどなかっただろう。それがわかってしまうほどには松中という人間を弥生は知っており、何よりこんな話をされてなお眉ひとつ動かさない彼の姿が答えのすべてを物語っている。
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