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思慮深さは必要だろう。言わないのは、優しさの表れでもある。でも由弦は知っているのだ。あの快活に笑って突き進む姿にもまた、答えはあるのだと。
「……そうだね。まったく、その通りだ」
蒼は自嘲するかのように小さく息をついた。いつだって、蒼は手を指し伸ばす側だと思っていた。それは彼らを見下しているわけではなく、ただ彼らの世間知らずさが危うくて、その仕方ない幼さを補い、導かなければと半ば親心のようなものでそう思い込んでいた。雪也に怒ったことも、先を示したこともある。だが、そんな自分もまた、年相応に幼かったのだと思い知らされた。
そう、由弦の言う通りだ。もしかしたら、と頭によぎっていながら湊に対して何も言えなかったのは、その予想が当たっていると知りたくなかったから。湊を傷つけたと、思い知りたくなかったから。湊が何も言わずいつも通りを装ってくれるから、その日常を失いたくないと蒼もまた知らないフリをした。湊が店に顔を出さなくなったことで、その日常などとうに無くなっていたというのに。
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