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「じゃぁ、また来月に来ますね」
穏やかに微笑む雪也に馴染みの老婦人もまた微笑んで、お土産にと蒸かし芋を渡しながら「待ってるね」と笑った。老婦人に軽く手を振って、雪也と周は家を出る。
「さて、薬は全部配り終わったから、必要な物を買いつつ蒼のお店に戻ろうか」
異常なほどに人気の少ない道を歩きながら穏やかに雪也は言うが、その実まわりを警戒して常に気配を探っているのが周にはわかった。
「玉子だけ買いたい。後は蒼のところで野菜を買えれば大丈夫」
いかに紫呉に鍛えられていたとしても、雪也はそもそも一般人だ。けっして武人ではない。ずっと気配を探り、警戒し続けるのは神経も体力も削られるだろう。ならば早く庵に戻った方が良いと周は頭の中で本当に必要な物だけを選別した。他のものは、無くてもどうにかなる。
「わかった。じゃぁ、玉子を買ってから蒼のお店に行こうか」
周の考えなど、きっと雪也はお見通しだろう。それでも〝大丈夫だ〟と言わないところを見るに、あまり雪也にも余裕はないようだ。やはり長く外にいるのは得策ではないと、周は僅かに歩調を速めた。
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