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「ねぇ親父さんッ! 何があったの!? 親父は!? 親父はどこ!?」
叫ぶように問いかけるが、よほど怖い思いをしたのだろう男達はガタガタと震え燃え盛る屋敷をただ茫然と見上げるばかりで蒼の問いかけに答えない。否、もしかしたら聞こえてすらいないのかもしれない。だが蒼もまた、そんなことを考え、慮るだけの余裕はなかった。
「親父さんッ! しっかりしてッ! 親父はどこ!? どこにいるの!? 親父さんッ!」
答えてッ! と叫びながら揺らし続ける蒼にようやく気付いたのか、男は錆びついた機械のようにぎこちなく視線を向けると、言葉も無く震える指を真っ赤に燃える屋敷に向けた。
まさか――。
「親父ッ!」
考えるよりも先に、蒼の身体は駆けだした。走り回る役人の合間を縫って、燃え盛る屋敷に入る。視界は一面真っ赤で、呼吸すらできない。それでも蒼は止まることなく奥へ奥へ、父が辿ったであろう道をなぞるようにして進み、その姿を探した。
「おい蒼ッ! ああッ、もう!」
走り出した蒼に反応するのが一歩遅れた由弦は伸ばした手が空を掴んだことに舌打ちしそうだった。炎に呑まれる蒼の姿に一刻の猶予も無いと、腕に抱いたサクラを地面に降ろす。
「ここにいろ、サクラ。大丈夫、すぐに帰ってくるから!」
追いかけてきそうになるサクラにもう一度そこにいろと叫ぶと、由弦は水桶を頭上でひっくり返し、ずぶ濡れになるともう一度水を汲んだ水桶を手に蒼の背を追って燃え盛る屋敷の中へ入った。
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