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※残酷描写あり。これから残酷描写がある回には「※」がつきます。ご注意ください。
蒼は納品の際に使う道を知っているのだろう、既に由弦の見える範囲にはその姿を見つけることはできなかった。その代わりに、累々と折り重なる影が見えて、由弦は眉を顰める。だが、感傷に浸っている暇は僅かも無い。由弦は片手で鼻と口を覆いながら、蒼の姿を探して視線を彷徨わせながら走った。
走って、走って、どれほど経っただろう。おそらくはほんの僅かな間であったのだろうが、永遠とも思えたその先に、ようやく由弦は地に伏せた男を泣きながら揺すっている蒼の姿を見つけた。
「おやッッ……、ゲホッゲホッ、親父ッッ」
煙が喉を焼くのだろう、蒼はまともに言葉を発することができないようだ。見れば蒼も、彼の父親も着物の端に炎が移っている。だがそれにも気づかないほどに、蒼は必死になって父親を起こそうとしていた。咳き込みそうになるのを必死に抑え込んで、由弦は二人に走りよると手に持っていた桶の水を勢いよくかける。
「ッッ――!!」
炎に囲まれた状態では水の冷たさなど無いようなものだが、衣にうつった炎は消すことができた。ようやく顔を上げた蒼が驚くよりも先に、由弦は蒼の父親の腕を引っ張って肩に回す。
「出るぞッ!」
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