【短編】秘密の残り火〜腹黒御曹司は蜜夜の赤薔薇を逃がさない〜

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 千草はこの披露宴のために美容室も予約していて、だからいま履いているストッキングも長時間着用しているものだ。汗もかいたうえ匂いも気になる。ワンナイトに合意したとはいえ、この行為に対して込み上げる羞恥心は想像以上のものだった。 「っ、ッ……!」  久嗣が喫煙室で口にした、部屋に辿り着くまで煽り散らかしてやろうという言葉は本気だったのだろう。足の指先にちろちろと熱い舌が這い、千草の身体の深部に甘い疼きを生み出していく。千草は無意識のうちに腰を揺らしながら久嗣の頭に手を伸ばし、艶のある黒髪に手を入れて押し返す。  たっぷりと唾液を付けられ、熱を持った舌先で執拗に舐めあげられていく。力の抜けた左足が上半身をうまく支えられなくなった頃、ようやっと久嗣が足先を解放した。 「福重」  久嗣はひざまづいたまま千草を下から射抜いた。漆黒の夜を思わせるような黒い瞳が、長い睫毛の奥で熱を孕んで揺らめいている。  こんな瞳で見つめられて――冷静でいられるはずがない。息の上がった千草の身体の奥が、ずくんと大きな音を立てて疼いた。 「っ、……な、によっ……」 「もし俺が、お前を抱くために部屋とってたっつったら……どーする?」  熱っぽく言葉を落とす久嗣の声が、脊髄を伝い身体の奥を震わせる。と同時に、独特の浮遊感が千草を包んだ。  さっきから色々と反則だと思う。投げかけられた問いに千草は呼吸すら返せず、くらりと目の前が霞んでいく――けれど。 「ジョーダン」  次の瞬間、久嗣がふっと口の端をつり上げて愉しげに笑った。揶揄われているのだと察した千草は、一気に顔に熱が集まるのを自覚する。 「あ、あんたねぇっ」 「こんなんで動揺してんじゃねぇよ。チョろすぎんだよおめぇ」  ゆっくりと開くエレベーターの扉から差し込む光に合わせ、久嗣が千草の身体をふたたび抱きかかえた。全身に上手く力が入らない千草も抵抗らしい抵抗はせず、久嗣のしなやかな腕に全てを預け切る。  久嗣は迷いなく豪奢な内廊下を歩き、最奥の部屋の前で立ち止まった。そして千草を抱きかかえたままドアのロックを指紋認証で解除する。
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