【短編】秘密の残り火〜腹黒御曹司は蜜夜の赤薔薇を逃がさない〜

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 ドアを開くと視界に飛び込んでくるのは、上質で落ち着いたアイボリーの広いソファと大理石で造られた猫足のローテーブル。大きな窓の向こうには宝石箱をひっくり返したような夜景が広がり、その先にはキングサイズと思しき真っ白なベッドが鎮座していた。  やはりこの男は御曹司なのだと千草は実感する。翌日に近くで商談があり、帰路に割く時間がもったいないから、老舗の高級ホテル――しかも最上階のスイートルーム――を取ったという、ある意味非常識な発想をしているのだから。  ドアが閉じ、自動的に内鍵がかかる音がする。ふたたび身体を捩って久嗣の腕から抜け出した千草の全身は離されることなく、しっかりと後ろから抱きしめられたまま。おとがいを捕らえられ強引に背後を向かされ、逃げられずに唇を塞がれていく。  逞しい腕に囚われたまま、口腔を蹂躙する久嗣の舌へと自らの舌を絡めると、身体の芯がずんと疼く。自分の堪え性のなさに呆れたくなるものの、押しつけられる快感を逃がしたくはなかった。  久嗣の手が千草の背中に回り、ドレスと同系色の編み上げをするりと解いた。骨張った長い指が少しずつドレスを緩めていく。  ドアを隔てた先は先ほどの内廊下。しゅるしゅると響く衣擦れの音が、妙な背徳感とわずかなもどかしさを生む。わざと緩慢な動きで編み上げを解かれていくのが焦ったくて仕方ない。 「そんな顔しねぇでも、ちゃんと触ってやるよ」  唇を離した久嗣が愉しげに笑い、脇下のファスナーを下ろしていく。緩んだ隙間から久嗣の手が滑り込んで、なだらかな双丘にブラジャーの上からゆっくりと触れられる。それだけで、腰がびくりと跳ねてしまう。  千草を見おろしている鋭い眼光には確かな情欲が宿っていて、嫌な気はしない。どことなく「勝った」ような、なんともいえない高揚感が千草の思考を支配していた。  腕を伸ばし久嗣の腰のベルトへ指をかける。馬車の形をしたバックルは一目でわかる高級ブランドのもの。曲がりなりにも久嗣は販売員なので、普段から身に着けるものにも気を配っているのだろう。  スラックスとボクサーパンツを下ろすと同時にしゃがむと、眼前に赤黒い凶器がふるりと躍り出る。久嗣の体格に応じた長さと太さの肉楔の先端はぬるりと潤っていて、わずかに獣臭い。  唇を寄せ(きっさき)を口に含むと、汗とは異なる塩辛さが口内に広がる。
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