【短編】秘密の残り火〜腹黒御曹司は蜜夜の赤薔薇を逃がさない〜

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 *** 「で?」 「は?」  乱れた髪すら直さず、掛け布団で半身を隠して体育座りをしたまま千草が煙草に火をつけると、浴室から戻ってきた久嗣がぎしりとベッドに腰かけた。先にシャワーを浴びたらしい彼の黒髪からしたたり落ちる水滴が肩にかけたバスタオルへと吸い込まれていく。水も滴るいい男――不意にそうしたことわざが千草の脳裏を掠めた。でも、やはり口を開けば残念な男。ピロートークの第一声が「で?」とは、残念すぎるにもほどがある。 「食後の一服か、セックスの後の一服か」 「……あぁ」  そういえばそんな話をしていた気がする。その話題からこうして一夜の誘いになったことを思いだした千草は、ゆっくりと紫煙を吐き出し、右手から立ち上る白い陽炎を眺めながらぼんやりと声を返す。 「セックス」 「おまっ……答えは変わんねぇのかよ」 「長年そう思ってんだから今更変わるわけないでしょ。バカなのあんた」  呆れたように眉を顰めた久嗣に向かって千草も言葉を投げつけた。 「そーゆーあんたはどうなの。答え、変わった?」  千草はベッドサイドテーブルに置かれた灰皿に灰を落とし、ふたたび煙草に口付ける。久嗣は無言でベッド下に放られたジャケットから煙草と()()()()を取り出して、ゆっくりと火をつけた。 「まぁ。確かに……セックスの後の方がうめぇ気もするな」  ぽつりと呟いた久嗣の声は、彼が吐きだした紫煙を大きく揺らして消えていった。
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