【短編】秘密の残り火〜腹黒御曹司は蜜夜の赤薔薇を逃がさない〜

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 千草は久嗣と本当に好みが合わないと感じていた。久嗣は女が好むようなカシスオレンジかカルアミルクが好きなのだ。甘いものが好きだから煙草もチェリー系しか吸わない。現在進行形で吸っているブラックストーンのチェリー、もしくはキャプテンブラックのチェリー。  対する千草はジントニックかモヒートが好きで、煙草も吸いごたえのあるアメリカンスピリットを好む。嗜好品の傾向がとことん違うのだ。「私とアンタ、ことごとく好みが合わないわね」というセリフを投げつけてやろうかと千草が紫煙を吐き出した、刹那。 「んじゃ、試してみっか。どっちがうめぇか」 「……は?」  わけのわからない言葉に、千草の口から素っ頓狂な声が落ちた。呆気に取られたままの千草を置き去りに、久嗣は自然な動作で千草の肩に手を回す。なんの違和感もないその仕草のまま―― 「…………な。いいだろ?」  挑発的に誘う眼差しを持った男は千草の耳元で低く、甘く囁いた。そしてその瞬間、千草は、「あぁ、そうか」と気が付いた。思わずぞくりと背筋が痺れる。  こうやって――一夜のセックスに、誘ったり誘われたりする。こうした()()()()()()()()()()()()()()()()()()、のだろう。  わずかな興奮が交じる瞳に射抜かれ、千草は答えを返すように乱暴に久嗣の唇を奪った。特になんの抵抗もなく口付けを受け入れた久嗣が手に持った煙草を灰皿に押し付けるのを視界の端に捉える。 「それ、好きよ」 「あん?」  唇を離したあと、おとがいで彼の手を示して緩やかに微笑んでみせた。キョトンとした久嗣の表情を見つめ、千草もゆっくりと煙草の火を消した。 「待ちきれないって言ってるみたいでエモいって言ってんの」  彼は千草よりもあとにこの場所にきて煙草を吸っていて、だから必然的に煙草は長いまま。だというのに、久嗣は千草よりも早く煙草の火を消した。千草としては煙草を吸い切る時間すら惜しいと言われているような気がするのだ。久嗣から舌なめずりでもされているようで、なんとも気分がいい。 「……こーゆー時の好みは合ってんだな」
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