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腰に回された久嗣の手が緩み、つぅと下へと移動すると、熱を持った大きな手のひらがスカートの裾をたくしあげ、ストッキング越しに千草の太ももに触れた。
――うそでしょっ……!
まさかこの男、喫煙室でおっぱじめる気ではなかろうか。それだけは勘弁してほしい――千草がびくりと肩を跳ね上げると、久嗣はようやく唇を開放する。
「どうした?」
一段と低く響く久嗣の声が腰に響く。ふるりと身震いした千草は弱々しく久嗣の胸を押し返しながら、息も絶え絶えに言葉を返した。
「あ、んたっ……ここで、ヤる気じゃ」
「はっ、まさか」
千草の問いに久嗣は心底面白そうに吐息を落とし、耳朶を甘噛みしながら小さく囁く。
「さすがの俺でも公共の場でヤる趣味はねぇっつの。部屋まで煽り散らかしてやろうと思ってるだけだ」
「へっ、部屋……?」
「明日はこの近くで外商の仕事入ってっからこのホテルに部屋とってんだ。飲んで家に帰んのかったりぃし」
千草が久嗣にしなだれかかりそうな自らの体勢を必死に立て直しつつ不可解な言葉をオウム返しするも、久嗣は千草の問いの意図を瞬時に読み取ったのか、さらりとした答えが返ってくる。
てっきり披露宴会場となっているこのホテルを抜け出してどこかのラブホテルにでもしけこむつもりで自分を誘ったのだろうと思っていた。だが、この雰囲気でいけばどうも違うようだ。
久嗣の身体が離れ、ソファから立ち上がった。けれど千草は先ほどの深い口付けの余韻からまだ抜け出せやしない。一向に席を立たない千草に久嗣が訝しげな視線を向けてくる。かっと身体の奥が熱くなり、千草は久嗣をこれでもかと睨みあげた。
「腰っ……抜けて立てないの!」
「おーおー、そりゃ好都合だ」
くくっと喉の奥を鳴らした久嗣は千草を射抜いたまま、ゆっくりと自らの唇を舐める。その仕草が堪らなく淫らで、千草は目の前の男の色香になすすべもなく絡め取られていくのを感じていた。
久嗣がその場に腰を落とし、ソファに沈みこんだままの千草と視線を合わせる。そのまま千草のパンプスに手を伸ばし、右足首のストラップをパチンと外した。
「ちょ、っと」
「一応聞いといてやる。おぶられるのがいいか、肩に担がれるのがいいか」
「は……?」
「残念、時間切れ」
「なに、え、はっ……ひゃあ!?」
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