コンビニの死体

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 第一発見者は五十代の女性客だった。 「私がトイレに入ろうとしてドアに手を掛けると、ドアが重くて、動きの悪い扉だとは思ったんですけど、両手で横に動かしたんです。そしたら、女性の死体が倒れてきて、思わず声を上げました。足に女性の体が当たって、なんだかまだ気持ちが悪いんです」 「それは何時くらいのことですか?」 「七時半くらいかしら」 「被害女性との面識はありますか?」 「このコンビニにはよく来ますし、女性のお母さんと知り合いなので彼女のことは知ってはいますよ。でも直接話したりしたことはないです」 こんな田舎だから周りは知り合いだらけという感じだ。  黒岩警部は他の二人の男性客にも声を掛けたが、たまたま店にいただけで被害者と面識はないという。 「あなたはトイレは使いましたか?」 「いいえ、使っていないです。もう帰ってもいいですか?」 「すみません、もう少し待ってもらえますか。一応全員のお話を聞いてから……」 そう言うと男性客の一人は少しイライラした様子を見せた。 次に店長の中年男性に声を掛けた。 「発見当時、店内にいたのはここにいる四人だけで間違いありませんか?」 「はいそうです。ただ、コンビニですから、発見する少し前にも何人か客は来ていました。亡くなった一橋さんは十分近くトイレに入っていたようなので、もしかしたらすでに帰ってしまった客の中に関係者がいたのかもしれません」 店長のいう通りコンビニは客の出入りが激しい。 「防犯カメラの映像を確認させてもらうことは可能ですか?」 「もちろんです。いつでも大丈夫です。店は何時頃営業再開できるでしょうか……」 「鑑識の現場保存が完了して……。そうですね、明日の昼までには営業できると思いますが、トイレはまだしばらく立ち入り禁止のままでお願いします」 店長はそれを聞いて少しほっとしたようだった。  もうひとりの女性店員は事件当時、被害者と一緒にシフトに入って店番をしていたそうだ。 「私は七時過ぎくらいにドリンクの補充をしていました。そのときにレジからの呼び出しのブザーが鳴ってレジに行ったら、一橋さんが、トイレの呼び出しベルが鳴ったから見に行くので代わりにレジをやってほしいと言われました。それで一人でレジ打ちをしていたんです。一橋さんがトイレに入ったあと、客の男が出てきて多分この人がブザーを押したんだろうなと思ったんですが、その人はお弁当と飲み物を買って行かれました。それから十分くらいしてもまだ戻ってこなくて、おかしいなとは思ったんですが……。そちらの女性客の方がトイレに入ったときに発見されたという感じです」 「なるほど、被害者の一橋さんはブザーで呼び出されてトイレに行ったんですね」 緑川は声に出しながらメモをとった。 「そのあと、発見されるまでの間に誰かトイレに入られた方はいましたか?」 黒岩警部が質問を続ける。 「発見されたそちらの女性客以外はいらっしゃらないです」 「あたしは扉を開けてすぐ見つけただけよ!」 中年女性は自分が疑われないかと警戒しているようだ。 「今聞いた限りだと、ブザーで一橋さんを呼び出して出ていった男が怪しいですね」 緑川が予想をしてみたが、それを無視して黒岩警部は別の質問をした。 「被害者の一橋さんに関して、何かトラブルの話や人から恨みを買っているというような話ありませんか?」 それに対して大学生とみられる女性店員が、 「別れた彼氏からしつこく連絡が来るって言ってました。一橋さんはもう新しい彼氏ができてるのに、相手はまだ未練があるみたいで困ってるって言ってました」 それから相手の情報を訊いてみたが、彼女は詳しくは知らないらしい。 「防犯カメラの映像を見せてもらえますか?」 黒岩警部が店長に言うと事務室に案内された。  そうして事情聴取をしている間に鑑識のメンバーが到着し、遺体付近の調査や店内の写真を撮るなど作業を始めていた。緑川は事務室に向かいつつ、鑑識の様子を見てまるで刑事ドラマのようだと不謹慎にもワクワクしていた。
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