コンビニの死体

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 青山はトイレの窓を外側から確認していた。 「舞い散る血しぶきと血に飢えた殺人鬼! まさにミステリの世界だな」 これが謎めいた山奥の洋館ならわかるが、 「コンビニのトイレですけどね」 と冷めた調子で緑川は答えた。  中途採用で警察になったため、警官としての年数では青山の方が長いが、年齢では緑川の方が上だ。それなのに緑川は敬語、青山はタメ口という関係性に若干納得がいっていなかった。 「こんな所に何かあるんですか?」 「いいか、これは殺人事件なんだぞ? 犯人は必ず探偵の裏をかいてくる。だから探偵は裏を読まないとなんだよ」 まさか探偵気取りになって自分の世界に浸っているとは。緑川とてミステリ好きの親友がいる手前、ミステリを否定する気はないが、職務中にこんな調子でいいのか。 「裏を読むためにトイレの裏を調べてたんですね」  こんな奴は放っておこうと思い、黒岩警部から言われていた作業着の男の会社、ABC工業に連絡することにした。  時刻はすでに九時。こんな時間では電話は繋がらないかと思っていたが、会社の社長という男が出た。曰く、家族経営の会社で工場と自宅がつながっていて電話も自宅から取れるのだという。社長に事情を説明したところ、遅い時間だが訪問を許可してくれた。  作業着の男の情報を確認するために、黒岩警部の許可をとってABC工業へ向った。  緑川が社長に写真を見せると、氏名と住所を教えてくれた。そのことを電話で黒岩警部に伝えると、 「証拠隠滅の恐れもあるから、できるだけ早くコンタクトを取った方がいい。もし訪問して出てこないようだったら張り込みだ。凶器をどこかに捨てに行く可能性もある」 金曜日の夜、もうすぐ十時になろうかという時刻。そして明日も休日返上確定だ。
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