コンビニの死体

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 黒岩警部からの指示があり、作業着の男の家に向かう前に一度コンビニに寄って青山を車に乗せた。基本的に聴取は二人組で行う。 「黒岩警部たちってまだ中にいました?」 緑川は運転しながら青山に訊いた。 「被害者の家族に会って交友関係を調査するって」 「そうですよね。家に帰れるわけじゃないですもんね。私たちはこれから徹夜で張り込みかもしれないですし。噂通り、刑事部ってハードですね」 「張り込みにはならないんじゃないか? 俺は犯人は別にいると思うぞ。だってあの現場、衝動的な犯行って感じじゃなかったぞ。そんなにわかりやすい犯人なわけない」 「私は初めての殺人現場だったので、正直そこまではわかりませんでしたね」 「そうだな。俺はもう捜査一課で三年目。殺人も何件か見てきてるからわかるよ。今回のは普通じゃない」 青山が自慢げに言ったが、  作業着の男の自宅は一軒家だった。ABC工業の社長に聞いたところ、結婚していて子供もいるという。  時刻は十時。全く常識外れな時間の訪問だ。玄関のチャイムを鳴らすと家の中の明かりがついて、寝巻き姿の男が出てきた。青山は警察手帳を見せてすぐに話を始めた。 「夜分遅くにすみません。三日月町のコンビニで起きた殺人事件はご存知ですか? その件について伺いたいことが」 「知ってるよ。ついさっきテレビで観たんだ。今日行った所だったからびっくりしたよ」 緑川は写真と見比べてこの男が探していた作業着の男であることを確認した。  青山は質問を続ける。 「防犯カメラの映像を確認したんですが、犯行現場であるトイレに入られていますよね?」 「はい、入りました。それで扉が開かなくなって困ったんですよ。非常ボタンで店員を呼び出したら、すぐに店員が来て扉を開けてくれたんですが、つっかえ棒されていたんです。それもその棒というのがモップとホウキをガムテープでくっつけて長くした物だったんです。手の込んだイタズラだと店員の女性も言っていましたが、全く何でそんなイタズラをしたのか……。そういえばトイレの個室に入る前にその棒があるのは気づいていたんです。でもまさかその棒が倒れてつっかえ棒になってしまうなんて考えていませんでした」 犯人の可能性もあると見ているのに、意外と素直に話してくれる。動機の線として例の元恋人がこの男なのでは? というのも考えていたのだが、妻子持ちだというし、見た目もぱっとしないこの男が浮気をしているようにも見えない。 「被害者の方と面識はありますか?」 青山が質問した。 「家が近いのであのコンビニにはよく行くんです。なのでその店員さんを見かけたことは何度かあると思いますが、それだけです」 「おかしいいですね? 私は被害者とは言いましたが、それが店員だとは言っていませんよ!」 青山はカマを掛けて証言の矛盾を突こうとしたようだが、 「さっきテレビで観たって言っていましたよ︙︙」 緑川はしたり顔の青山にツッコミを入れた。 「そうです。おっしゃる通りテレビで観たんです。ご存知でしょうけど、扉を開けてくれたのもその店員さんでした」 確かに非常ベルで呼ばれたのは被害者の一橋さんだったが、扉が開かなくなっていたというのは新しい情報だ。  話の様子から逃走の危険性は低く、犯人と断定できる証拠もないため、後日任意で警察署に来てもらうことにしてその日は聴取を終わりにした。
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