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友人、木枯小次郎
一人暮らしの自宅に帰ってきた緑川は自分が疲れているのはよくわかっっていたが、それでも目が冴えて眠気など全く感じなかった。初めての殺人事件の刺激がまだ尾を引いていた。この興奮が冷める前にと、友人に電話をすると、相手はすぐに出た。緑川は挨拶のもせずに本題に入った。
「――木枯、殺人事件だ」
木枯小次郎というのが彼の名前だ。
「こんな夜中に電話してくるなんて、もしかしたらと思ったよ。いつ起きた事件だ? いや、もしかしてニュースになっているコンビニ店員殺害の件か?」
「そうだ、察しがいいな。私の班、黒岩班が担当になったんだ」
「すごいじゃないか! ニュースになるような事件を担当しているなんて。ところで犯人は見つかったのか?」
「まだなんだが、お前に相談しようと思って。――個室の中に飛び散った血、青い液体、つっかえ棒で開かなくなった扉、窓の外の血痕。少々変わったところがある事件なんだ」
電話の向こうで木枯が鼻で笑うのが聞こえた。ずいぶんと興味をそそったようだ。
「今、アパートにいるのかい? ちょっとお邪魔して話を聞いてもいいか?」
「今からか?」
緑川は電話で話すだけのつもりだったし、明日の朝のミーティングがある。
「そうだよ。金曜日の夜だぞ? こっちは明日の心配なんて必要ない」
「俺は明日も仕事だ」
「なに、私が仕事の手伝いをしてやるんだよ」
ミステリ好きというのはこうも自信家が多いのだろうか。
「わかった、待ってるよ。知恵を貸してくれ」
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