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捕獲されて
「やれやれ。ジュシアはこのまま王都の家に戻るだろう?…結構飲んだみたいだね?」
そう顔をしかめて、少しふらつく僕を支えたガブリエルの逞しい腕は、先日の発情期の記憶を甦らせた。僕はドキンと心臓を震わせて、慌てて身体をガブリエルから引き剥がした。あの時から僕はガブリエルとどんな顔をしていいかわからなくなってしまった。
「大丈夫だよ。そんな飲んでないから。…ガブリエルはどうしてここに?」
すると僕を軽々と引き立てながら、ガブリエルは僕をチラリと見下ろして言った。
「ジュシアが私から逃げ回っているから捕まえに来たんだ。実際屋敷にも帰って無いだろう?…それとも私の部屋に来るかい?」
僕はやっぱり酔っぱらっていたんだろう。あまり考えないで口から返事が飛び出していた。
「え?ガブリエルの部屋?王宮近くに借りてるんだっけ?一度も呼んでくれてないよね?行ってみたいよ!」
するとさっきの顰め面とはうって変わってクスクス笑うと、馬車を停めるやいなや、僕の腰を抱き寄せて座席に押し込んだ。僕はガブリエルに抱えられて馬車の振動と嗅ぎ慣れたウッディでスパイシーな匂いに癒やされて、うとうとと眠ってしまった。
「ジュシア、着いたよ。私の部屋を見に来たんだろう?」
僕はぼんやり顔を上げてガブリエルの住まいを見上げた。いかにも値が張ると分かる瀟洒な建物は、若いガブリエルが住むには分不相応な気がした。
「…ここ?随分立派な所に住んでいるんだね。」
するとガブリエルは門番に鍵を開けさせると、奥の扉へと僕を抱き抱えて歩き出した。
「まぁ、僕はアーサー王子の参謀だからね。待遇もそれなりだよ。」
アーサー王子は病に臥せっている皇太子に代わり、皇太子業務の代行をしている。場合によっては王様になる可能性もある。そのアーサー王子の参謀としてガブリエルは学院時代から頭角を表してきた。
そう考えるとこのくらいの待遇になるかもしれない。
「僕はアーサー王子の参謀なんてごめんだなと思っていたんだ。だから学院卒業したら辞めますって言ったら、待遇がめちゃくちゃ良くなった訳だ。まぁ、本気で辞める気は無かったんだけどね。私は偉くなる必要があったし。」
僕は少年の頃にガブリエルと話した会話をぼんやりと思い出した。
「そう言えば、ガブリエルは大出世して偉くなるって言ってたね。それで僕の後見人になってくれるって…。」
スルリと僕を抱き寄せたガブリエルは僕を黙って見下ろした。いつの間にこんなに立派になったんだろう。賢そうな額を撫でつけた短い金髪が整った顔を彩っている。幼い頃はぱっちりしていた緑色の瞳は、すっかりルークのように切れ長で何を考えているのか分からない。
身長も横幅も僕よりずっと逞しい身体は、ボードゲームばかりしていたあの頃の面影は感じられなかった。
「…ガブリエルって、いつの間に大人になったの?」
僕が思わず呟くと、ガブリエルは苦笑してあの時の様に甘く囁いた。
「気づくの遅いよ。私はとっくに大人になっていたのに。この前、証明したと思うけど?」
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