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手の内で戸惑う
自分は大人だと薄く笑いながら、ガブリエルは僕を甘く見下ろした。僕は発情期のあの時の記憶が一気に蘇ってきて狼狽えてしまった。
僕が熱い身体を持て余していたあの時、部屋の扉をノックして扉に仁王立ちしていたガブリエルは何も言わずに僕を抱き上げた。
抵抗も出来ずに、何処かホッとした気持ちで僕よりひと回り大きな身体に寄り掛かると、思いの外逞しい胸板にドキドキした。成長と共にガブリエルが好んで使用した香水は、僕がプレゼントした爽やかな香木のものだった。
それがガブリエルの体臭と相まって僕の大好きな匂いになった。思わずガブリエルの首筋に顔をうずめて胸に吸い込むと、クスクスとガブリエルの機嫌の良い時に立てる笑い声がした。
『くすぐったいよ、ジュニ。全くそんなところは獣っぽいんだから。』
いつもより優しい響きの声を耳にしながら、僕はボソリと呟いた。
『…ガブリエルにこんな事させるの気が引けるよ。』
するとガブリエルは少し黙りこんで僕をベッドにそっと下ろして言った。
『…ジュニは私の事をいつまでも小さなご主人様だって感じるのかい?それは今夜塗り替えることになるよ。心の準備は良い?』
そう言うとさっきよりも疼く身体に手を伸ばした。少し触れただけで仰け反ってしまう僕の身体はすっかり発情していて、ガブリエルの大きな手を楽しんだ。僕は喉を鳴らして囁いた。
『もっと…。もっといっぱい触って…!』
あの後の驚く様な快感に追い詰められた記憶に、僕は顔を強張らせた。やばい、勃ちそう。そんな僕の動揺に気づいているのかどうか、ガブリエルは何を考えているのか分からない眼差しで僕を見つめると、身体を引き剥がして僕を浴室へ連れて行った。
「ほら、そのままじゃ眠れないだろう?湯浴みしておいで。」
そう言って僕の唇に軽く唇を押し当てると、さっさと部屋に戻ってしまった。僕はすっかり高まった身体を落ち着かせようとぬるい湯で身体を洗うと、用意されたガウンの袖に手を通した。
明らかにガブリエルのサイズでない小さめのそれは、一体誰のものなんだろう。僕はガブリエルがこの部屋に愛人でも連れ込んでいるのかもしれないと気がついて、胸がギュッと痛くなった。
僕と入れ替わりに湯浴みに行ったガブリエルの視線が僕を捉えて鋭くなったのは勘違いかな。僕はその視線の鋭さにドキドキしながら身体が熱くなるのを感じた。
もしかして今夜、また僕たちは身体を合わせるんだろうか。期待で身体は疼くけれど、このままなし崩しにそんな関係になってしまって良いのだろうか。僕は酔っていたせいで、それ以上考えることも出来ずにベッドに転がった。
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