ガブリエルのお客さん

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ガブリエルのお客さん

なぜ僕は此処に居るんだろう。僕は自分でもストーカー紛いの行動をしている自覚がありながら、部屋を出たその足でガブリエルの住む建物が見える店の中の一角に陣取り、お茶を飲んでいた。 ぼんやりと発光する僕を二度見するのは、初めて王都へ来た者くらいで、もはや僕は王都の一部となっていた。僕の希望通り放っておいて貰えるくらい、僕の教会への貢献度が高いとも言える。 僕が考えたポーションはもはやこの国の一大産業となっていて、聖獣コツメカワウソ印の刻印が木箱に焼印されている。最も僕自身が聖獣のコツメカワウソと同一であると知っているのは、ごく限られた一部の関係者だけだ。 この店のカウンターにもポーション取り扱い店と言う金属の札が掲げられていて、見るとも無しに見ていると購入するお客さんも多いみたいだ。 今の僕にも心を落ち着けるポーションが必要かもしれないと苦笑いしながら、視線はガブリエルの住む建物の門に目が釘付けだった。 その時、大柄の男が建物に近づいて行くのが見えた。それは見覚えのある後ろ姿で、僕は思わず立ち上がっていた。どう言う事?あいつがお客さん?門番とやり取りしていたその男は、周囲を見渡すと店の中から呆然と見ていた僕と目を合わせると目を見開いて、少し驚いた様子で真っ直ぐこちらへとやって来た。 僕は今更誤魔化しようもなくて、諦めてもう一度椅子に腰を下ろした。もう何が何だかよく分からない。いつ見ても大柄な男は店の中に入って真っ直ぐに僕のところへやって来た。 「よう、ジュシア。こんな所で何してるんだ?…まさか本当にジュシアが此処にいるなんて思わなかったけどな。ちょっと此処から出ようか?」 僕は気まずい思いをしながら渋々、ケインの後をついて店の外に出た。 「…ケイン、どうして僕が此処にいるって分かったの?て言うか、さっき門番と何話してた?」 するとケインは僕の顔を見下ろして苦笑すると、思いがけない事を言った。 「だからさ、お前が此処に居るって事が全ての答えなんだろう?ガブリエル様は全部お見通しなんだ。いや、ガブリエル様にとっても一種の賭けではあったのかもしれないけどな。あの人も、ジュシアの事となると冷静ではいられないみたいだから。」 僕には指一本触れようとしなかった昨日のガブリエルを思い出して、ケインに口を尖らせて呟いた。 「…ガブリエルは冷静も冷静だよ。僕が自分の事を馬鹿だと思うくらいには。」 するとケインは肩をすくめて僕を門の中へと押し込みながら言った。 「だから、そこん所をちゃんと話し合ったほうが良いって事だ。さっきみたいにガブリエル様のところへ訪れる客が誰なのか、こっそり知ろうとするより手っ取り早いだろ? …全くガブリエル様は本当恐ろしい人だよ。ジュシアの事なんて全部お見通しだから、ジュシアも安心してぶちまけて来い。な?」 そう言うとさっさと後ろを向いて手をひらひらさせて立ち去ってしまった。僕はしばらくポカンとしたけれど、ケインの言葉が腑に落ちて来ると急にガブリエルに腹が立って来て、その勢いのままガブリエルの部屋の扉の前まで突撃すると拳で強く扉を叩いていた。
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