扉を開けるか、開けないか

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扉を開けるか、開けないか

「ジュニは此処から出て行きたいの?本当に?私はもうジュニのご主人様じゃない。だから私の側に居るには、他の理由が必要だよ。」 僕は流れてくる涙を顎から垂らしながら、後ろにいるガブリエルに鼻声で尋ねた。 「…んっ、他の理由?…僕がガブリエルを欲しいってこと?ガブリエルが他の人を好きなのに、僕がガブリエルを愛してるって気づくのが今更なのに?」 するとガブリエルの逞しい腕が、僕を後ろからぎゅっと抱きしめて来た。そして僕の首に顔を押し付けて、ガブリエルがホッとしたように言った。 「…やっと言ってくれた。ご主人様ではない私を愛してるって…。その言葉がどんなに欲しかったかジュニは分かる?」 僕は目を見開いて、僕を抱きしめているガブリエルの腕に指を掛けた。今ガブリエルは何て言った?僕が色々考える前に、ガブリエルに簡単にひっくり返されて、僕は喜びで目元を赤らめているガブリエルを見上げた。 途端にガブリエルの口元が笑いを含んで、僕をサッと抱き上げると逃げ出したかったソファへと連れ戻されてしまった。そこで顔を拭われると、僕はさっきとはまるで違うご機嫌なガブリエルに戸惑った。 「私はずっとジュニが大好きだった。だから誰にも渡したくないという独占欲も当然だと思っていたんだ。発情期が来るたびに仕方が無いこととはいえ、兄上達と発散をするジュニを憎く思うほどだったよ。 でも、ご主人様である私とジュニは永遠に離れることはないって思ってた。でもそれは反面、ジュニは私の事を永遠に小さなご主人様だと思ってる事と一緒だった。 私の気持ちはジュニを一生愛したくて、愛されたかった。それにはご主人様を止める必要があると思ったんだ。ジュニが私の事を愛してくれているのは、この前の発情期でよく分かった。…ジュニは分かりやすいからね。でもだからってそれを私に伝えてくれないだろうとも。 だからちょっとした賭けに出たんだ。私達を身動きできなくしているご主人様契約を止めようって。ジュニは普段からあまり考えが深くないから、自分の気持ちにも気づいてなかったよね?騙すような事になったのは謝るけど、ジュニの本当の気持ちを聞けて、嬉しくてたまらないよ。」 僕は呆然とガブリエルの言う事を黙って聞いていた。途中酷い言われ様だった気もしたけれど、目の前のガブリエルの美しい緑色の瞳が僕を甘く見つめているのを感じると、胸が熱くなって喜びが湧き上がって来た。 ガブリエルが僕を愛している?一生愛するって言った?僕は両手を伸ばしてガブリエルの顔を引き寄せると、自分から唇を押し当ててもう一度ガブリエルの瞳を見つめて言った。 「ガブリエル、僕も愛してる。本当に一生愛してくれる?」
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