性悪令嬢とぽっちゃり王子

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 豪華絢爛な夜会。  華やかに着飾った令嬢たちが花のように咲き誇り、または蝶のように舞っている。  そんな中イザベラはカーテンの影に隠れ、ある機会を待っていた。  対象が視界に入り、彼女は足を踏み出す。 「やめた方がいいよ」  不意にそう声が聞こえて、口の中に甘さが広がった。 (え⁉︎) 「美味しかった?もっといる?」  戸惑う彼女に微笑む男。  丸い目に丸い鼻。茶色の巻き毛。 「で、殿下!」  イザベラは目の前に突然現れ、何やら口に中に砂糖菓子を放り混んだ男の正体を一瞬で悟り、体をこわばらせる。  この場にいるはずがない、いやいてもおかしくはないのだが、普段なら夜会などには絶対出席しない、第二王子のデイビッドは手の平の皿にたくさんの星を乗せて、笑顔を浮かべている。  口の中に入られた、多分その星の一つは、味わう暇もなくすでに溶けてなくなっていた。 「おかしな事考えずに、甘いお菓子でも一緒に食べない?」   ぽっちゃり王子と陰で言われている太めの体型のデイビッドは自分でそう言った後、はっと目を見開く。 「おかしな、お菓子。掛けたわけじゃないから」   イザベラの思考はデイビッドに会った時点ですでに停止しており、そんな些細な事に気が付くわけがない。 「し、失礼いたします」   とりあえず、何をしようとしたか、気づかれていた事は確かだった。それであればと、彼女はそれ以上考えることを放棄して逃げ出した。  ☆ 「どうしたらいいの?」  両親を急かせて夜会の会場を後にしたイザベラは、屋敷に戻ると気分が悪いと部屋に引きこもった。  メイドたちによって夜会用のゴテゴテしたドレスはすでに着替えさせられ、彼女のキツイ顔をますます引き立てる化粧もすでに落とされている。  枕に顔を押し付け、イザベラは再度問いかける。  答える者などいないのだが、聞かずにはいられなかった。  イザベラ・リード。  野心まんまんなリード伯爵の一人娘で、彼女自身も王太子妃になると信じていた。そして後々は王妃として国母になると。  そのために嫌いな勉強もしてきた。  王太子のチャーリーが開くお茶会には毎回欠かさず参加し、その存在を彼に誇示しつづけ、彼女はチャーリーの婚約者になると信じていた。  第一王子でもあり王太子であるチャーリーは十八歳、彼はなかなか婚約者を決めなかった。候補者だけはイザベラを含む五名の令嬢の名が挙げられており、茶会や夜会では王太子の婚約者の座を決めて争ってきた。  そして一週間前、唐突に王太子の婚約者が発表された。イザベラはショックで気を失うかと思ったくらいだった。  選ばれた、いや、発表された婚約者は候補とされた五名の令嬢の中からではなく、外から選ばれた。  病弱で田舎で静養していた伯爵令嬢。いつお迎えが来てもおかしくないという噂の令嬢であったのに、発表の場に現れたのは健康そのものの女性。  詐欺。今までの婚約者選定はなんだったのか?  長年の努力はなんだったのか、令嬢たちは憤った。その中でイザベラの怒りは格別であり、彼女は選ばれた娘、それに王太子チャーリーも許せなかった。  思い知らせてやる。  その思いは日増しに強くなり、彼女は今夜、その娘を皆の前で恥かかせることに決めた。オロオロする彼女の側の王太子も見ものだと。  イザベラ自身の目で確認したいため、実行するのは自らだ。  この時点で、彼女はすでに冷静な判断ができなくなっていた。  王太子の婚約者に対する無礼は王族への非礼に繋がる。しかもそれを自身で実行するのだ。誰かに相談すればきっと止められる。そんな無謀な行動。けれでも彼女には友達もいなく、側にいる侍女やメイドは気のおける関係ではない。  無論両親との関係も上手くいっていない。  王太子の婚約者が決まり、彼女の両親の態度はまるっきり変わってしまった。あれだけ甘やかせ、褒め称えていたイザベラを無視するようになり、弟に期待するようになっていたのだ。  イザベラはむしゃくしゃしていて、自暴自棄になっていた。  そうして、選ばれた令嬢に彼女が用意した特製のワインをぶちまけようとして、ぽっちゃり王子に止められたのだ。 「もうだめ。絶対に処罰される。未遂とはいえ、私がしようとしていたことはわかっていたはずだもの」   実行していたとしても処罰は免れない。むしろ未遂で済んで良かったのだが、イザベラにはその考えはなかった。 「明日、誰か私を捕まえに来るかもしれない」  イザベラは顔面蒼白で頭を抱え、ベッドの上で猫のようの丸くなる。心配し過ぎて眠れない。そんな事はなく彼女はスヤスヤと眠りに落ちていた。
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