ヤンキー君と秀才君 最初で最後の恋

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 秘密が生まれるときは実に運命がかたりと生まれるとき。  絶滅危惧種とは――絶滅の危機にある生物のことだ。一般的に絶滅の恐れがある野生生物のことを「レッドリスト」と呼ばれている。しかしながら、多分、彼らが絶滅してもこの世界に何の弊害もなく、むしろ絶滅してくれた方が治安が良くなると考える人間が多いのが実情だろう。しかし、そんな世の中にも未だにヤンキーが存在しているらしい。しかも、あだ名は本名から名付けられたヤンキー。生まれながら、ヤンキーになるべくして生まれた男とでも言えるだろう。  絶滅危惧種と囁かれている不良。いわゆるヤンキーが未だ現存している山家(やんべ)高校。通称ヤン高。今時、ダサい、ありえない、時代錯誤と言われようと、この男は、ヤンキーという己のスタイルを確立している。ある種のこだわりを持って生きているのだろう。  ヤンキーというあだ名の男、本名は山間京志郎。「やんまきょうしろう」を短縮してヤンキーと呼ばれている。実際、京志郎は今時珍しい生粋のヤンキーだ。まずは見た目がヤンキー、言葉づかいがヤンキー、髪型がヤンキーだ。彼が通う高校は、校則は厳しくなく、勉強ができない生徒が多い。ひと昔の言葉で言えば不良と呼ばれる類の生徒が集まってきている。みんなが適当に制服を着こなし、適当に授業を受けるというゆるい、言い方を変えれば荒れている高校だ。そんなヤンキーは、己の信念を揺るがず持ち続け、曲がったことが嫌いな熱血漢で、元気が取り柄の馬鹿男だ。  そんなヤンキー君がバイクで同級生の幼馴染の弥子と一緒に帰宅していた時に、目の前に突如人間が現れた。何やら参考書を読みながら細い通路を歩いており、その少年は自殺行為かのように目の前にふらっと出てきた。これは、殺人鬼になってしまう。そう直感した京志郎は持ち前の運動神経で何とか少年との接触を回避することに成功した。しかし、代償は己のバイクの傷と足を痛めたこと。弥子も足から血が出ている。 「てめぇ、あっぶねーだろ。どこみてんだ、こらぁ」  目つきの悪さと凶悪さでも高校一と恐れられているヤンキーが凄むとたいていの人間はそれ以上踏み込まない。しかし、痛いはずの足が痛くないことに違和感を感じる。そして、驚き慌てている目の前にいる人間が自分であることに気づく。これは、どういうことだ? 鏡を見ているのだろうか? もしや、さっきの事故で俺は死んでしまったのだろうか。瞬時にたくさんのことを考える。  弥子が「ヤンキー大丈夫?」と京志郎に駆け寄るのが見える。普通はこんなに客観的に見えるはずがない。俺の体がどうしてしまったのだろうか? 目がおかしくなったのかもしれないと、目を擦る。自身の腕をよく見ると、いつもの制服じゃない。これは、さっき飛び出して来た進学校の学生の学ランだ。そして、目の前に見えるのが、俺自身とバイクと幼馴染の弥子。こんなことは、ありえない。絶句する。ただ、立ちすくんでいると――。京志郎自身が驚いているのが見える。 「なんで、僕が底辺高校のヤン校の制服着てるんだよ?」  驚く京志郎。その瞳に鋭さはなく、優しさと驚きしかない。 「何言ってるんだよ。ヤンキーはあたいと一緒のヤン校に通ってるんだから、当然だろ。頭打ったなら医者に診てもらおう」  幼馴染で派手なメイクと派手なファッションをモットーとしている弥子が手当てしている。京志郎は手足にかすり傷ができており、出血していた。  こう見ると派手な金髪コンビだな。と傍観していると、弥子がこちらに向かって叫ぶ。 「あんた、大丈夫か? その制服は超進学校の秀高(しゅうこう)の生徒だろ?」 「俺が、超進学校の秀高校生? ありえねーだろ」  笑いながら一蹴する。 「おまえも頭打ったのか? 一緒に病院行くか?」  弥子が転んだ俺に手を差し伸べる。でも、どこか距離がある。まるで今日初めて会った人物かのような距離感だ。 「あのさ、鏡持ってる?」  何となく、怖くなった京志郎はその場で鏡で確認することにした。  鏡をのぞく――そこには、知らないはずの男がいた。俺ではない、黒髪で超真面目な高校生だった。関わったことのないおとなしいタイプだった。 「おまえも鏡を見てみろ」  そう言って、自分自身に渡す。 「どういうこと?」  金髪の京志郎はいつもの目の鋭さがない。穏やかで素直な瞳だ。 「まるで別人だな」 「つまり、俺たちは中身が入れ替わってしまったようだな」  中身が京志郎の方が言葉を放つ。 「はぁ? 何言っているの? そんな映画みたいな話、ないでしょ」  弥子は笑う。 「でも、実際、俺たちは入れ替わっているんだよ。弥子。おまえのことを俺は何でも知っている」  秀才の姿になった京志郎が説明する。 「弥子が泣き虫で、実は派手になったのは、中学にあがってからだったことだったよな。中学デビューの弥子ちゃん」  真面目なはずの秀高の男がにやりと似合わぬ鋭い笑みを浮かべる。 「ってことは、やっぱり、この秀高の男子が京志郎なのか?」  弥子はようやく信じてくれたようだった。  真面目な黒髪男子は不似合いな睨みを利かせる。 「ちょっと、(しゅう)君。何してるの?」  秀高の女子がやってくる。見た目は長い黒髪であり、清楚でしっかり者。弥子とは真逆のタイプだ。二重の瞳は美しく大きい。 「俺、山間京志郎。よろしくな」  やってきた女子と京志郎自身に自己紹介をする。 「何言ってるのよ?」  やってきた大きな瞳のかわいらしい女子が変な目で見つめる。 「どうも、この男とバイクで接触しそうになった際に入れ替わっちまったらしい」  整った髪の毛を掻きむしり、気づくと髪の毛は、ぼさぼさになっていた。 「秀君ってば、らしくない言動だな」 「俺は秀君じゃなくて、山間京志郎。ヤン高1年。あだ名はヤンキーだ」 「ネーミングセンス、ダサいなぁ。それだけで、とりあえず納得。入れ替わったんだね」  目の前の初対面の女子は真面目そうだが、案外納得するのは早く、むやみやたらに疑うようなことをしない。 「おまえものわかりいいな」 「順応性はあるほうなんで。というか、そんな目つき、秀君はしないでしょ。それに、そんなにガラの悪そうな人たちと一緒にいることもおかしいし」 「ちなみに名前は?」  外見が京志郎の方に聞く。 「はじめまして。僕は秀彩高校1年生の西条秀(さいじょうしゅう)。あだ名はシューサイです」  見た目が派手なのに、礼儀正しいのがアンバランスだ。 「私は、秀彩高校1年生の青藍末来(せいらんみらい)。よろしくね」  屈託のない笑顔は甘え上手とでも言おうか。多分、無意識なのだろうが、敵を作らない誰にでも優しく接するタイプの謙虚なタイプだった。耳にかけた髪の毛は女性らしいしぐさで、一般的にはかわいらしいと思える動作だが、そんなことを気にかけないそぶりをする男二人だった。 「あたいは元木弥子(もときやこ)。元ヤンっていうあだ名にしたいところだけど、元じゃなくて現ヤンなんで、夜露死苦」  睨みはやはり効いているが、ヤンキーコンビの二人共、根は素直でいい人なのだろうと秀彩高校の二人は感じていた。  弥子は今時珍しいギャル系女子で、ヤンキーという分類というかは微妙だ。  金髪で派手なメイクをしている。 「入れ替わったっていう説明しても、普通親も学校も信じてくれないよね?」  当然のことを未来が言う。 「じゃあ、入れ替わり生活するしかねーな。でも、ここはかわいい女子といれかわるとか、そういうのがラブコメの王道ネタだろ」  京志郎は順応性が高い。 「男同士の方が、色々困らないんじゃない? 僕だって、ヤン高に通うとか、怖い人たちに囲まれるなんて望んでないし」  秀が諦めモードで同意する。 「大丈夫。秀のことは、あたいがちゃんと守ってやるから。学校のことは何でも聞いてくれ。幼馴染だから、家のことも把握してるから教えてやるよ」  弥子は意外にも優しい。 「私も、秀君とは幼馴染だから、何でも知ってるよ。ヤンキーの世話は、任せて!!」  未来はまるで母親のような母性を表す。むしろ得意げだ。 「部屋のこととかわかんないことも多いから、一旦、秀の家に行ってみっか。って俺の家だな」 「でも、その言動は慎んでくれよ。それと、制服は着崩さないこと。僕の進学や成績に関わることになるんだ。学校での評価を落とさないためにも真面目にやってほしい」  切実な訴えだ。 「でも、俺、勉強ついていけないな」  勉強しなくても入ることができる高校を選んだヤンキーが初めてぶち当たった壁。  中学の勉強も怪しい。そんな人間が入ることができる高校なのだから、できなくて当たり前だ。 「もう一度入れ替わるまで、放課後は僕が勉強教えるから。末来ちゃんにも協力を要請するよ」 「了解。でも、もう一度入れ替わらなければ、一生このままじゃ大変だよね」  未来は核心を突く。  一瞬冷たい風が頬を撫でる。一生このままだったら、どうなるんだろう?  不安という大きな文字がのしかかる。 「もう一度、バイクで轢かれそうになるとか? 階段から落ちるとか? 雷に当たってみるとか?」  変な提案をする。 「どれもハイリスクだし、確実性がない。ケガや死ぬことのほうが心配だ」  もっともらしいことを言う秀は冷静だ。先程まで慌てふためいていたが、本来の彼は冷静な性格なのだろう。 「金髪は染めるなよ。あと、その髪型も俺の命だから」 「わかったよ。髪のセットの方法は後で聞くよ。そのかわり、黒髪の今の髪型を変えないこと」 「……わかった。所詮、この体は秀のものだからな」 「大事なヤンキーの体、確かに預かったよ」 「大事な秀の体、確かに預かった」  変な友情がこの瞬間始まった。元々はお互いにタイプは違えど真面目人間。ある意味貫き通す部分は同じだ。  かたや不良の人情派。かたや生真面目な秀才。でも、人に対する気持ちは同じくらいまっすぐだった。  弥子、未来のサポートもあり、何とかやり遂げられそうだ。  絶対に交わることのない二人がまじりあう瞬間。  これは運命という名のいたずらなのか?  お互いに急な絆が芽生える。そして、一同、秀の家に到着する。両親は共働きで帰宅は遅い。  閑静な住宅街に品のいい新しい戸建てが秀の自宅だ。秀の部屋にて、学校に持っていくもの、着替えのおいてある場所、お風呂やトイレの場所など家の間取りから習う。通学路から塾への行き方、そして、スマホの番号まで教えあう仲になるとは、数時間前までは思わなかっただろう。  クラスメイトの名前と顔の写真や特徴も教えられ、京志郎の普段あまり使わない脳みそは爆発寸前になっていた。  髪をぐしゃぐしゃにわしづかみにして、焦る京志郎。わかんないことだらけだ。  勉強ははっきり言ってわからない。進学校のやっている内容は普通の学校よりもはるかに難しい。  京志郎からはため息しかでない。うんざりした表情がわかりやすい男だ。  つい、座り方がヤンキーというのも京志郎らしい。 「ちゃんと、座ろうね」  優しく注意する秀はまるでおかあさんだ。 「何かあったら、私に聞いてね」  天使のような笑みの未来。 「おまえ、未来のこと好きなんだろ。俺がこの体にいる間に、恋を進展させてやるから安心しろ」  耳元でささやく。 「ちょっと待ってよ。困るって」  若干の赤面をする秀。見た目はヤンキー。 「好きなのは否定しないんだろ?」  にやりと楽しむヤンキー。見た目は秀。 「否定はしないけど、変なことになったら困るから、掻き乱さないで」  慎重なのは見た目が変わってもだ。 「ビビりなのはよくないと思うぞ。男はここぞってときに、ビシッと決めないとな。任せとけ」  楽しむことを忘れないのは見た目が変わってもだ。  仕切り直して、説明を始める秀。 「両親は、公務員で仕事は残業が多いんだ。優しい穏やかな家庭だよ。だいたいのことは説明したから、細かいことはスマホで聞いてくれ。あとは、末来ちゃんに頼って」  4人でスマホの連絡先を交換する。 「んじゃ、次は俺んちだな」  ヤンキーの家は隣の中学の学区だ。歩いて30分もかからないところにある。ヤンキー歩き方は、がに股で肩を張るのが基本らしい。歩き方から指導される。逆に秀となった京志郎の歩き方についても歩幅や気品ある姿勢について正す。お互いに直し合いながら、練習する。  たどり着いたのは、少し古い戸建てで、母親と住んでいる。昭和感のある家の香りがどこか懐かしい。和風の部屋で秀の部屋は畳だった。 「うわー、畳って憧れてたんだよね」 「まじか。俺はフローリングにベッドという家に憧れてたけどな」 「じゃあ、交換できてお互いラッキーじゃん」 「そうなるな」 「二人共、案外能天気なんだな。この先、どうするんだ?」  案外一番冷静でまともな弥子は、腕組みしながらじっと二人を見つめる。 「どうにもならないなら、仕方ねぇ。生きていくってことはそういうことだ」  よくわからない正論を述べるヤンキー。 「たしかに、こういうのって医者とか科学者でもどうにもできないってのが鉄板だよね。あとは、男女入れ替わりが鉄板なのにね。この際、別人の人生を楽しむのもありだよ。私たちが協力するしね」  天然なのか、あまり真剣な様子でもない未来。なんとかなるというおおざっぱな性格らしい。  ヤンキーの家は、片親家庭であり、母親は見た目は派手だが、真面目に仕事をしているらしい。夜勤も多く、決して裕福ではないが、息子への愛情は大いにあるらしい。父親は幼い時に亡くなってしまい、記憶にないとのことだ。  弥子とは近所であり、ヤンキーがいじめから助けたりした経由で見た目が派手になったが、根はまじめで素直らしい。その話をすると、弥子は真っ赤になり怒っていた。多分、弥子はヤンキーが好きなのだろうとヤンキーの姿となった秀は感じていた。微力でも、力になれれば彼女に恩返しができる。そして、自分の姿に戻れた暁には――未来に告白しようと決意していた。とは言っても、戻ることができる保証もなく、現代の科学ではどうしようもない。こんな事実に立ち向かえるほどの決意もないまま入れ替わるなんて――しかも自分が一生関わらないであろうヤンキーという絶滅危惧種に関わってしまうなんて――と秀は何とも言えない気持ちになる。  ヤンキーの一日のローテーションや最重要である髪のセットの仕方、日用品の置き場所から部屋の間取りまで説明される。  座り方から目つきの指導までヤンキーにされる秀はなんて無駄な時間なんだろうと感じていた。そして、その後、学校でやるであろう範囲を教え、宿題を解く秀。初めての家庭教師に勉強を教えてもらう状態のヤンキーにとって、なんて退屈な時間なんだろうとしか思えなかった。  無料で家庭教師をしてもらう地元最強の男は見た目が180度変わっても、勉強は全くできないという事実は変わらないようだった。 「坂には不思議な力があるんだって聞いたことがある。入れ替わったのは依代坂。神の域という意味もある依代だよ。絶対何か関係してるよね。バイクでの接触しそうになった瞬間だけじゃない何かが二人の共通点にあったのかもしれないね」  秀彩高だけあって、未来はまともなことを言う。普通の表情だが、整った顔が人気の秘密だろう。しかし、秀の片思いということは誰が見てもわかりやすい事実だった。未来は鈍感で誰かに恋している様子は全くない。秀に対して全く特別視していないのは明白だった。  その後、各自自宅に帰宅する。ある程度の情報共有をしつつ、その都度スマホで確認する方式を取った。ヤンキーの家から三人は撤収する。秀と弥子は自宅に残り、遠くに住む中身がヤンキーと未来は帰宅する。  弥子と二人になり、質問してみる秀。 「弥子さんは、ヤンキーのことが好きなの?」  唐突過ぎる質問に弥子は赤面し、クッションを顔に当てて隠す。わかりやすいストレートな性格だ。外見だけ派手にしているだけで普通の女子高校生だ。 「べつに、なんでそんなこというんだよ?」 「見ていりゃわかるよ。彼、心根がまっすぐだし顔もいい。まぁ、今は中身が僕だけどね。僕で良かったら、山間君だと思って接してくれてしていいよ。外見だけは最強と恐れられる地元の有名人なんでしょ」   弥子はじっと見つめる。上目遣いで恥ずかしそうだ。でも、普段まっすぐヤンキーのことを見ることができないが故、彼の代わりだとしてもじっと見ていたい。そう思っているのだろう。ヤンキーが弥子に恋心を抱いているのかはわからないが、あの様子だと、恋愛なんて興味ないという精神年齢の低さしか感じられない。 「告白の練習してみる?」 「お言葉に甘えて……好きです。とかそんなんでいいのか?」 「もっと感情を込めて、かわいらしく。そうすれば女の子として意識してくれるよ。君は凄くいい子だと思うから」  弥子の胸はキュンとなる。ヤンキーの見た目にキュンとなったのか、中身の秀にキュンとなったのかはわからない。  一方の世話焼きヤンキーは、未来に「俺のこと好きか?」と秀才の姿で聞いてみる。  もちろん、秀が元に戻った時に、男として見てもらえるように前進させようと思ったからだ。  すると、変な返事が戻ってくる。 「私、不良とか全然好みじゃないけど、あなたみたいな不良ならありかもしれない」 「はあ?」 「私、今は好きな人がいないけど、まだあなたのことを好きかどうかは考えさせて」  別に告白したつもりはない……。  不良って中身の京志郎に対して言ってるんだよな。  外見のほうの秀に対して考えろよ。と心で思う。   なぜか勘違いした未来は、それ以来、弁当を作ってくれたり、やたら献身的な世話をしてくれる。  気分は悪くないが、誤解だともいえずに、ただ、時を過ごす。  秀と入れ替わった時のために、印象を良くしてやろうと一応応じているような状態だった。  次第に勉強を教えてもらうために二人きりになったり、学校でも気遣ってくれる彼女のことが次第に気になるヤンキー。  でも、素直に受け入れられなかった。  秀の気持ちが大事だと思ったからだ。  もし、自分と入れ替わらなければ絶対に関わりのなかった未来。  そんな人に好意を抱くなんてもってのほかだと自分に言い聞かせる。 「秀君って弥子ちゃんとうまくいってたりして。ヤンキー君は弥子ちゃんのこと好きじゃなかったの?」 「あいつとはそーいう関係じゃないからな」 「弥子ちゃんの片思いかな。多分私の予想だけどね」 「え? あいつが俺を? 考えたこともなかったけどな」 「きっと、弥子ちゃんはヤンキー君にずっと憧れてどんどん派手になっていったんだよ。でも、ヤンキー君は女の子に興味がないから、仕方ないって言ってたもん。だから、少しでも女の子に興味を持つように私で練習してたんだよ」 「すべては弥子のためだったのか?」 「うん」  いかりがこみあげる。なぜかわからないヤンキー。でも、なぜか不愉快だった。未来に気持ちをもてあそばれた気がしたからだ。 「弥子のために手を触れたりわざと弁当作ってきたのかよ。そーいう人をもてあそぶようなことをするな。本当に好きな男ができた時にするべきだ」  驚く未来。  それまでヤンキーはほとんど未来に対して感情をあらわにすることはなかった。意外にも温厚だということが未来を惹きつけていたのかもしれない。 「最初の恋が最初で最後の恋になったらいいって思うんだよな」 「なんで?」 「大人はたくさんの別れを繰り返して、結婚も何度もしている人もいる」 「きっといい出会いがあると思うよ」  もうすでに最初で最後の恋に出会っているなんて、この4人はまだ気づくはずはない。そして、不思議な入れ替わりが1週間後に戻ることもまだ知らない。
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