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「はぁーきっっつーー」
頭の中が空っぽになるまで身体を動かして、汗だくのままアリアはゴロンと地面に横たわる。
手が痺れるほどの感覚と剣と剣が交わる硬質な音が耳の奥に残っていて、高揚感が身体を占める。
アリアが目を閉じてゆっくり開けた時にはもう彼女の瞳はいつもの淡いピンク色に戻っていて、形のいい唇はとても満足そうに弧を描いていた。
「……楽しかった」
アリアは未だ大剣の形を保ち続ける魔剣荊姫に視線をやる。
「楽しかった、ね。荊姫」
ここは戦場でも前線でもないし、これは勝負でもないただの手合わせだ。
だが、ロイの聖剣と戦っている間中、ずっと荊姫が楽しそうな様子が伝わってきて、アリアはそんな好戦的なお姫様に全力で応え続けた。
断罪ルートを回避した今、こんな日々が死ぬまでずっと続くのだとアリアは思っていた。
だけど、荊姫と道を分つ分岐点が発生した。
ヒナを元の世界に帰すためには荊姫が必要だ。
(荊姫は、前を見てる)
荊姫が答えを出してしまったのだから結論は出ている。ただ、アリア自身の心がそれに追いついていないだけ。
(でも、私はこの選択で良かったって本心から言える自信がない)
きゅっと唇を噛み締めたアリアの手の上に温かな手が重なる。
「アリア、上見てみな」
いつの間にか隣に寝転んでいたロイが優しい声音でそう言った。
「…………キレイ」
真っ黒な闇夜に浮かぶ下弦の月と散りばめられた星々にアリアは小さな声を上げる。
「アリア。視野が狭くなったら、まずは落ち着いて息を深く吸って、ゆっくり吐いてみてごらん。思考が停滞してしまえば、見えているものも見えなくなってしまうから」
隣に視線を移せば、触れられるほどすぐ近くに大好きな琥珀色の優しい瞳と目が合って、アリアはじっとそれを見つめる。
「選択肢って言うのは、一つに見えても必ずしもそうとは限らない。抜け道もあるし、気にいらなければ選択肢を増やすって手もある」
ロイはアリアの淡いピンク色の目を見ながら優しい口調で言葉を紡ぐ。
「"絶対"なんてないんだ。選択の責任は自分にしかとれない。人生の責任も喜びも後悔も全部自分で抱えていくんだ」
確定した未来など存在しない。
だからみんな悩みながら、その時々で自分にとっての最適解を探すのだ。
「だからアリア、アリアが思う通りでいいんだよ」
アリアはどうしたいと思っている? そう言ってロイはもう一つの手をアリアの方に伸ばしそっとアリアの頬を撫でた。
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