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「……荊姫のいない人生を歩く自信がなくて」
とアリアは荊姫を引き寄せてそっと撫でる。
「ヒナを帰してあげたいって、答えは出ているんです。でも、荊姫がいなくなるのが怖い」
アリアは静かに心情を吐露する。
「ずっと一緒に生きてきたから。いつも私の一番近くで応えてくれて、私もずっと荊姫の存在や感情を感じながら生きてきました」
アリアはゆっくり上体を起こし、荊姫を元の小さな剣に戻す。
「この子は今まで沢山の主人を見送ってきました。そして、私もこの子に見守られながら死んでいくんだと思っていました」
アリアは荊姫を大事そうに握りしめ、
「荊姫は、私が彼女を失ったあと生きていく覚悟を持てば絶対応えてくれます」
確信したようにそう答える。
荊姫が自身の終わりを嘆いていない事は、アリアには分かっていた。
「荊姫が私の代で終わりを迎える。それはきっと荊姫にとって、悪い事ではないんだと思います」
何事にも最後は訪れる。
きっと荊姫はもうそれを選んでいる。
分かっているのに、甘ったれた自分が彼女の存在を引き止めたがる。
「嬉しい時も苦しい時も悲しい時もそばにいてくれた誰よりも近い存在を失ってひとりになるのがきっと私は怖いんです」
気持ちを整理するように、アリアはロイにそう話した。
ロイはじっとアリアの話を聞いたあと、ゆっくり上体を起こすと、
「荊姫がいなくなったとしても、アリアのこれから先の人生にはずっと俺がいるから」
荊姫の代わりにはなれないけど、とロイはそう言ってアリアを見つめる。
「アリアが嬉しい時も悲しい時もそばにいる。それは約束する」
ロイはアリアに指を伸ばし、優しく彼女の頭を撫でる。
「俺はアリアを置いて逝ったりしない。君が最期を迎える日が来たら、息を引き取る最後の瞬間までずっと手を握ってる」
「……明日暗殺されてるかも、とか言ってたくせに」
アリアはクスッと笑いながらロイの琥珀色の瞳を見返す。
「俺は約束は守る方だよ? アリアをひとりにしたりしない」
確約はできないけど、努力はするからとロイは笑い返してアリアの淡いピンク色の瞳を見つめ返す。
「……今、ロイ様にすごく抱きつきたい気分です」
アリアから初めてそんな事を言われたロイは少し驚いた顔をして、
「おいで、アリア」
と笑顔でアリアを呼ぶ。
素直にロイの腕の中に収まったアリアは、ロイの心音を聞きながら、この音が自分より1秒でも長く刻み続ける事を願いながら、これから先の覚悟を決めた。
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