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騎士の仕事は引退したが、アリアはたまに騎士団に剣術の指導をしに行っている。
まぁ身体が鈍るのが嫌で騎士団の訓練にたびたび乱入していたら『姫様実は暇でしょ、寂しがりめ』っとクラウドに捕まってしまったというだけなのだが。
今日もそんな風にくたくたになるまで身体を動かし、沈む夕陽を見ながらアリアはゆっくり離宮への道のりを歩いていた。
綺麗な夕陽に見惚れているとアリアと自分を呼ぶ声がした。
「あれ、ロイ様仕事終わったんですか?」
「面白い事を言うな、アリア。仕事に終わりなんて存在しないんだぞ?」
「……また逃げてきたんですね」
後でルークに胃薬でも差し入れましょうとアリアは笑って、差し出された手を素直に取る。
ダイヤモンド宮に戻らないか? と聞かれたアリアがロイが植えるように手配してくれた花壇も庭園も離宮で仕えてくれる使用人たちもとても気に入っていて離れがたいと素直に申告したところ、ロイはダイヤモンド宮を解体し、改装して一般公開の資料館にしてしまい、転移魔法のゲートを設置し離宮を正式に皇太子妃の住まいと定めてしまった。
ちなみに資料館での一番人気の展示は時渡りの乙女に関するもので、彼女が着ていた衣装は可愛くて楽っとヒナと同世代の帝国女子たちにもてはやされ今やシンプルで動きやすいドレスがトレンドとなっている。
「せっかく離宮と本館の行き来楽にしたのにアリア緊急時以外転移魔法使わないな」
「んーだってもったいないじゃないですか」
歩くの好きなんですとアリアはロイの隣で機嫌良さそうに笑う。
「夕陽が綺麗で、お花も咲いてて、心地いい風が吹いていて」
アリアはロイをちらっと見たあと繋いだ手に少しだけ力を入れる。
それにこうやって歩いて帰れば、都合のつく日はあなたが送ってくれるから。
幸せそうに言ったその横顔を見てロイは不意に立ち止まり、
「アリア」
と愛おしそうに名を呼ぶ。
ロイの方に顔を向けたアリアに、ふわりと口付けが落ちてくる。
いきなりの事で目を丸くしたあと、外ですと恥ずかしそうに唇を抑えたアリアを見ながら、
「アリアが非常に素直で可愛い。このまま俺の部屋にお持ち帰りしちゃダメ?」
とロイは上機嫌でそう尋ねる。
「ダ、ダメです。だって、すごく汗かいてて泥まみれだし、湯浴みしてないし、化粧だって崩れてて」
慌てたようにそう言ったアリアは、自分の状態を思い出しロイから離れようとする。
が、ロイは繋いだ手を離さずにアリアのことを引き寄せて、
「部屋に遊びにおいでって意味だったけど、アリアは今何を想像したのかなぁ?」
と揶揄うようにそう言われ、勘違いだったのかと耳まで赤くしてアリアはロイから顔を背ける。その反応を見たロイはクスッと笑ってアリアを抱きしめると、
「ごめん、嘘。俺がこの先を期待した」
とアリアに囁く。
ロイは少し身体を離し淡いピンク色の瞳を覗き、アリアの手を取って指を絡め直して彼女の手にキスをする。
「今日はこれで我慢するから。アリアもこの先を考えてくれてるって、期待してもいい?」
真剣な目をした大好きな琥珀色の瞳に尋ねられ、どうしようもなく早くなった自分の心音を聞きながらアリアは小さく頷いた。
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