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『と、言うわけで。物語から退場しそびれてしまった悪役姫は、皇太子妃……まぁ現在は皇后なんだけど、とにかく皇帝陛下の寵愛を受けつつ、時に傍迷惑な夫婦喧嘩を繰り広げながら幸せに暮らしているのでした。めでたし、めでたし』
長い物語を楽しそうに語った見た目年齢10代半ばで、頭に王冠をちょこんと載せたお姫様は、
『感謝なさい、私がいなければあなた生まれてないんだから』
仁王立ちで腕を組み、偉そうにドヤ顔でそう言った。
「その話、もう飽きるくらい聞いたんだけど」
と文句を言いながら感謝してまーすと話を聞いていた齢6つを迎えた女の子は、そのお姫様の長いふわふわ揺れるストロベリーブロンドの髪とピンク色の瞳を見ながらそう返事をする。
「ねぇ、荊姫。どうしてもお母様には荊姫の姿が見えないの?」
と少し残念そうに尋ねる。
『無理ね』
荊姫と呼ばれたそのお姫様はキッパリと言い切る。
『あなた達人間と私のような魔族とじゃそもそも存在する領域が違うのよ』
荊姫は、慈しむように女の子の父親譲りのブルーグレーの髪を撫で、母親譲りの淡いピンク色の瞳を見る。
『ロゼット。あなたが私を認識できるのは、あなたが聖剣、魔剣両方の所持者の血を引き、尚且つその特殊な瞳を持っているからよ』
ロゼットと呼ばれた女の子はそれも何回も聞いたけどぉとまだ不服そうだ。
『ふふ、いいのよ。アリアに見えなくても。器が壊れて何年経っても私を思い大事にしてくれるアリアが、私の大事な愛し子である事には変わりないのだから』
もちろん、アリアの娘であるあなたもねと荊姫は楽しそうに笑う。
『そう、だから。私の可愛い子が退場したくなるような物語なんて許さない』
当然でしょう? とさも当たり前のように言い放つ堂々たるお姫様に、
「そんなだから"世界で最もわがままなお姫様"なんて呼ばれるんじゃないの?」
とロゼットは呆れ顔だ。
気に入らなければ時間も世界も捻じ曲げて物語なんていくらでも作り変えてしまえばいいだなんて、この最恐のお姫様は本当に恐ろしい。
だが、そんな事を思われても全く気にする様子のない荊姫は、
『ねぇ、ロゼット・ハートネット。あなたはこの世界で一体どんな物語を紡ぐのかしら?』
ふふっと楽しそうにそう笑う。
何百年と生きているらしいそのお姫様は、笑うと本当に無邪気な子どものように見える。
『私はいつでもあなた達の物語を見守っているわ。自由を手にした魔族には他に娯楽もないしね』
と大昔に大罪をおかして剣に封じられたらしいお姫様はもう剣に閉じ込められるなんて懲り懲りだしと、肩を竦める。
遠くで、
「ロゼット様〜」
「皇女様!!」
と慌ただしくロゼットを探す声がする。
『で、あなた今度は何をやったの?』
面白そうに口角を上げた荊姫はロゼットにそう尋ねる。
「大した事してないわ。いつも偉そうに威張り散らしてるセンセーの論文が間違ってたから分かりやすく添削して直してあげただけよ。センセーの母国語とうちの公用語2パターンで」
ついでにその論文を至る所で晒してきたし、時間の無駄だから来期分の課題まで全部済ませた成果物を置き土産に授業もサボってきてやったわと、どうせ女に王位など継げるわけもないと舐め腐った態度で接してくる教師に反撃しただけとロゼットは事も無げにそう話す。
『あらあらまあまあ、小生意気! アリアの小さい頃にそっくりよ』
愉快そうにパチンと手を叩いて楽しそうに荊姫が笑ったところで、
「ロゼ! ロゼット。やっぱりこんな所にいた」
隠し部屋のクローゼットを開けた人物は、急にいなくなるなんて心配するでしょとロゼットを叱った。
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