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3.縦長の家
私は鳥のために、食べ物を探すことにした。川を上流へと進んでいく。しかし、木々が生い茂るばかりで、同じ景色が続く。食べ物がありそうな気配は全くしなかった。
「なんで、私がこんなことをしなきゃいけないのよ」
私は一人で愚痴る。たかが一匹の鳥のために、しかも今日出会ったばかりの鳥のために、こんな森の中を進まなきゃいけない。鳥のくせに、飛ぶことも歩くこともできないなんて、信じられない。次にファンタジー小説を書く時は、あの鳥を登場させて、ひどい目にあわせてやる。そう決意した。
「あ、あれは」
私はその場で立ち止まる。葉の隙間から、煙が立ち上っているのが見えた。もしかしたら、人が住んでいるのかもしれない。私は煙の方へと向かう。
そこには、家があった。白くて、三角屋根で、煙突が生えた、絵本なんかでよく出てくるような家だ。しかし、一つだけおかしい点があった。それは、異様なくらい細長いのだ。家の面積の割に、高さはものすごくあり、入口と思われる扉も、私の背丈のニ倍はあるだろうか。煙突にいたっては、家の高さの五倍ほどはあり、見上げるだけで首が痛くなる。
おかしな家ではあるが、ここで食べ物をもらえるかもしれない。そう思い、私は扉をノックしようとするが、あることに気づいた。ドアノブが私の頭の位置にあるのだ。もしかして、ここにいるのは巨人だろうか。怪物みたいな巨大な人間を想像し、ゾッとする。しかし、ここで尻込みしても始まらない。私は一つ深呼吸をして、ノックをする。
「すみません。誰かいますか」
私はそう叫んだ。すると、扉がゆっくりと開く。その隙間からのぞき込む人間を見て、私は息をのむ。おそらく女性と思われるその人は、縦長なのだ。まるで、頭から引っ張って伸ばしたように、縦横比が縦にグンと大きくなっている。顔も胴体も足も縦長で、髪の毛は床まで届くほど伸びている。
「あら、珍しい。お客さんだ。ダム、お客さんだよ」
その縦長の女性は、家の中に向かって叫ぶ。
「お客さんだって、ディー。あら、本当だ」
ダム、という名前なのだろうか。同じように縦長の女性が現れた。ダムとディー、おそらく双子なのだろう。見た目は同じだった。
「お嬢さん、どうぞ入って。紅茶でも飲みましょう」
「そうそう。ゆっくり話でもしましょう」
「いや、でも」
「いいからいいから」
私は縦長の双子に促され、家の中に入る。
中には、たくさんの家具があった。そして、当然のごとく、全て縦長だった。机も椅子も脚が長く、私には使えそうもない。コーヒーカップまでも縦に長く、使い辛そうに思える。壁にかけた絵画まで縦長なのは、もはや二人の趣味なのではないだろうか。
「なぜ、お二人は縦長なんですか?」
私が聞くと、双子は目を丸くする。
「ダム。なんで私達が縦長なんですか、だって」
「ディー。確かにそう言ったね」
双子は腕を組んで、顔を見合わせている。まるで鏡に映したようにその姿は一致している。
「じゃあ、お嬢さん。あなたの身長が低い理由を答えてちょうだい」
「えっ、私?」
聞き返されるとは思わなかったので、私は焦る。
「理由も何も、私の身長は普通くらいよ」
「普通だってさ。ダム」
「ああ、そう言ったね。ディー」
双子は同時に息を吐く。
「あなたが普通と思っているように、私達も自分の体型を普通だと思ってるの」
「そう。自分の尺度でものを考えてはいけないわ」
「……」
私は言葉を失う。確かに、その通りだ。
「ところで、あなたは何か用事があって来たんじゃない」
「そうよ。何か用事があって来たんでしょ」
二人の顔がグッと近づいできたので、私は思わず後ずさる。
「あ、あの、実はお腹を減らせた鳥のために、食べ物を探していて、何か食べる物をいただけませんか」
「食べる物……」
双子の視線が同時に、部屋の奥に向く。奥の壁には、私の背丈よりも長いフランスパンがいくつも立てかけられていた。
「あ、あのパンをいただけませんか。とても美味しそう」
「ダメに決まってるじゃない」
双子の不機嫌そうな顔がこちらに向く。
「えっ、なんで。あんなにいっぱいあるから良いでしょ」
「いっぱいあるからって、あなたにあげても良い理由にはならないのよ」
「そうよ。あなたにあげるパンなんて一つもないわ」
私はまた何も言い返せずにいた。心の中で『ドケチ』と叫ぶ。
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