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「そんなことより、私達はお話を聞きたいの」
「そう。何か面白い話を聞かせて」
双子の表情は一転、ニコニコし始めた。こっちの願いは聞かないくせに、そっちは平気でお願いしてくるのね。この二人とは、とても気が合いそうになかった。
「良いわよ。私は作家だから、物語を話すくらい簡単よ」
「あら、作家さんなの。それは嬉しいわ」
「ぜひ面白い話を聞かせて」
双子は目を輝かせていた。こうやって期待されるのは、まんざらでもない。
「じゃあ、私が書いている小説のお話をするわ。ウィリアム父さんというタイトルなの。ある女の子が異世界に転生して、そこでウィリアムという名前の父親になるんだけど、妖に襲われそうになって……」
「えっ、異世界に転生」
双子の縦長の目が、さらに縦長になる。
「しかも、妖に襲われるなんて、驚きだわ」
「それで続きだけど……」
「もう十分よ。面白かったわ」
「うん。それじゃあ、違う話を聞かせて」
「はあ?!」
私はあまりのことに呆気に取られる。
「いや、まだ、序盤なんだけど」
「もうさっきの話は良いわ。違う話にしてちょうだい」
「そうそう。違う話を聞かせて」
本気で言っているのだろうか。あんなちょこっとだけ話をして面白いはずがない。しかし、双子の顔を見ると、真剣そのものだった。やはり、この二人とは気が合いそうにない。
「あの、今日はもう帰ります」
私が言うと、双子は残念そうな顔をする。
「あら、そうなの。もっといれば良いのに」
「そうよ。まだ紅茶も飲んでないじゃない」
「いや。帰ります」
私は縦長の扉を押し、外に出る。
「あ、そうだ。このあたりで、食べ物が手に入る場所はありますか」
私が言うと、双子は顎に手を当てて、考え込む表情を見せる。
「食べ物が手に入る場所、ね」
「それならあそこじゃないかしら」
「えっ、どこですか」
そこで、二人は同時にニヤリとする。
「ハングマンズツリーよ」
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