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4.ハングマンズ・ツリー
ハングマンズツリーと呼ばれる木は、縦長の家から五分ほど歩いたところにあった。その幹は太く、ゴツゴツしており、長い年月をここで生きていることがわかる。枝は四方に伸び、生い茂る葉っぱが入道雲のようだった。様々な木々が生い茂る中でも、一際存在感がある。
その木の周りには、たくさんの物が落ちていた。眼鏡やラッパ、コウモリ傘もある。縦長の双子が言うには、ここは『忘れ物が集う場所』らしい。あらゆる忘れ物がここに捨てられて、放置されているのだ。しかし、落ちているのはガラクタばかりで、食べ物は見当たらなかった。
「おや、お嬢さん、こんなところで何をしているんですか」
その声の主は、海パンを履いたウサギだった。
「ウサギさん。あなたこそどうしたの?」
「私はここにペンを探しに来たんですよ。けれども、ペンはなさそうですね。あっても使い物にならないものです」
ウサギは大きなため息をつく。
「はあ、それは残念ですね」
「お嬢さんも、何か探し物ですか」
「はい。食べ物を探しに来たんです」
「食べ物? はっはっは。それは探しても無駄ですよ」
「どうしてですか?」
「あちらを見てください」
ウサギはハングマンズツリーの根元を指差す。
「ほら、あそこに子供がいるでしょ。食べ物はあの子が全て食べちゃうんです」
「子供?」
私は目を凝らすが、どこにも子供の姿はない。
「えっと。どこに子供がいるんですか」
「ほら、そこですよ」
ウサギが指す方向には、大きな洞があった。そこには暗闇が広がっているだけだ。
「いませんよ。子供なんて」
そう言った時、暗闇の中で何かがモゾモゾと動いた。
「えっ。何」
私は一歩、後ろに下がる。動いている物体の正体は、子供だった。ただの子供ではない。全身が真っ黒なのだ。茶色の目だけが、異様に光っている。
「お姉さん。僕のこと呼んだ」
黒い子供が首を傾げて言う。
「えっと、私は食べ物を探しているんだけど、ここにはないのかしら」
「なんで食べ物を探しているの?」
子供はまた首を傾げる。
「浜辺で出会った鳥がお腹をすかしているの。だから私が食べ物を探しているのよ」
「なんでお姉さんが食べ物を探しているの?」
「その鳥は歩けないらしいの。だから私にお願いしたのよ」
「なんでその鳥は歩けないの?」
私はしつこく質問する子供にムッとする。これだから子供は嫌いだ。
「私が聞きたいのは、食べ物があるかどうかよ」
私が言うと、子供は黙りこんだ。少しきつい口調になってしまったかもしれない。
「ごめんね。なかったらないで良いのよ」
「あるよ」
子供はそう言って、ニッと白い歯を見せる。
「あのチケットを取ってくれたら、食べ物の場所を教えてあげても良いよ」
真上に差した指の先、ハングマンズツリーの生い茂る葉っぱの中に、一枚の小さな紙がまぎれていた。
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