4.ハングマンズ・ツリー

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「あれは、チケットなの?」 私が言うと、子供は大きくうなずく。 「あれを取るには、どうしたら良いでしょうね」 いつの間にか、すぐ横にウサギがいた。腕を組み、うんうん唸っている。 「私達の身長では届かないでしょうし、木の幹を登っていくのも大変でしょう。それなら、ここらに落ちている物を組み合わせて、弓矢を作るのもいいかもしれませんね。その矢でチケットを打ち抜けば、ひらひらと落ちてくるでしょう。それならまずは枝を拾って、それを削って……」 ウサギが独り言をつらつらとしゃべる。 「ウサギさん、そもそも弓矢を作る技術なんてあるの?」 私の問いかけに、ウサギは両手を挙げて、驚いた顔を見せる。 「はっ、ないですね。うっかりしてました」 「仮に弓矢を作るにしても、どれだけ時間がかかるかもわからないし、矢があのチケットに上手く当たる保証もないでしょ。というより、チケットに矢が当たったら、破れてしまうんじゃないの」 「その通りですね。困りました。どうしたら良いのでしょう。私には締切があるし、あまり時間がかけられないし」 「揺らしたらいいんじゃない?」 そう言ったのは、黒い子供だった。 「揺らす?」 私が言うと、彼は小さくうなずく。 「幹を揺らせば落ちてくるんじゃない」 「なるほど」 私は幹のそばに立ち、一つ深呼吸をする。そして、力いっぱい幹を蹴った。しかし、私の渾身のキックを受けても、びくともしなかった。 「はあ。全然だめね」 「これはどう?」 そう言って、手渡してきたのは、拳大の石と、ロープだった。 「ロープに石を巻き付けて、それを枝に向かって投げるの。そうすればチケットも落ちてくるよ」 なるほど。さすが子供だ。こういった知恵はすぐに出てくるのだろう。 私は早速、石にロープを巻き付けた。 「えいやっ」 チケットに向かって投げるが、少しずれてしまった。しかも、運が悪いことに、ロープが枝に絡まってしまった。 「ああ、どうしよう。ロープが絡まっちゃった」 「ふふ。じゃあこうしたら良いさ」 子供はそう言って、ロープを下に引く。 音を立てて枝が揺れる。それに合わせて、チケットももぞもぞと動く。 「よし。もう少しよ。頑張って」 私は子供にエールを送る。 「ほいさあ」 さっきよりも強めに引っ張ると、枝が大きくしなった。 「そおれ」 ロープを手から離すと、枝はその反動で、大きく縦に揺れる。その衝撃で、チケットは葉っぱからハラリと落ちてきた。 「やった。チケットが落ちてきた」 ひらひらと落ちてくるチケットを私は両手でがっしり掴む。指をゆっくり開くと、くしゃくしゃになったチケットがある。ピンと皺を伸ばすと、そこには一匹のブルドックの絵と、絵の横には「負け犬のパーティ」と書かれていた。 「負け犬のパーティ? 何それ?」 私の言葉に、ウサギの両耳がピンと立つ。 「なんと! 負け犬パーティの招待状ですか。それは素晴らしい。ブルドック伯爵のパーティは、めったに参加できないので、すごいですよ」 ウサギが興奮したようにしゃべる。 そう言われても、私は全く興味が持てなかった。ブルドックみたいな怖い犬は苦手だし、何よりパーティの名前がダサすぎる。 「それじゃあ、あなたにあげるわ」 私は子供にチケットを差し出すが、プルプルと首を左右に振る。 「えっ、ほしいんじゃなかったの?」 「やっぱりいらない。お姉さんにあげるよ」 「ああ、そう」 あまり嬉しくはなかった。ただ、行くあてもないので、行ってみるしかない。食べ物ももらえるかもしれないし。 「お姉さん。これ、約束だからあげるよ」 子供が差し出しできたのは、白くて小さい丸い物体だった。 「何これ?」 「ほら、食べ物がほしいって言ってたでしょ。僕の大事な宝物だけど、お姉さんにあげるよ。困った時に食べたら、必ず助けてくれるよ」 私は白い物体を手に取る。ふにゅっとした柔らかい感触だった。これはどうやら、マッシュルームのようだ。 「これっていったい……」 子供に聞こうとするが、目の前にその姿はなかった。あたりを見回しても、どこにもいない。 「お嬢さん、早くパーティに行きましょう。ブルドック伯爵に会えますよ」 ウサギが目を大きく見開き、こちらを見ている。 「はあ、まあ、行きましょうか」 私はもう一度、チケットを見る。ブルドック伯爵のやる気のない目が私を見つめていた。
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