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29歳の決心
「遥臣…」
「………ん、」
情事の後はくっついていたいという私の希望を受け入れて、腕枕をしてくれている遥臣の顔を斜め45度の角度から見上げて名前を呼ぶと、気怠そうな声がかろうじて返ってきた。
「私ね、今日で29歳になったの…」
「………んー、知ってる。さっき乾杯してケーキも食ったじゃん。」
「うん…。1年後には、30歳になるの。」
「…………そう、だな。」
20代最後の誕生日だから盛大にお祝いして!とちょっといいシャンパンとデパ地下の高級デリと大好きなパティスリーのショートケーキを自分で持ち込んで、遥臣のマンションにアポもなく押しかけたのが数時間前。
夕方だというのに部屋着のスウェット姿のままで髪の毛もセットしてない"完全休日モード、今日は一歩も外に出てません"スタイルで私を出迎えた遥臣は、呆れた顔をしつつも
「………はいはい、」
といつものように私を部屋に招き入れた。
誕生日を遥臣に祝ってもらう……正確にはいつも私が半ば強引に祝わせてるんだけど…のはもう3回目だし、もしかしてもしかしたら万に一つ、億に一つ、今回はプレゼント…とまではいかなくてもケーキくらい、いや、ご飯食べに行くかってお誘い、ううん、せめて私が来る事を予想して着替えて待ってる…くらいの事はワンチャンあるかもと期待してしまった馬鹿な自分すら今日は愛おしもう。
シャンパンで乾杯をして、私の期待のこもった眼差しにフッと鼻で笑いながらも「おめでとう」と言って目を細めながら少しだけ口角を上げた遥臣も、「美味いなこれ、」と言いながらローストビーフを頬張った遥臣も、「甘…」と顔をしかめながら私の好きなショートケーキを2口だけ食べた遥臣も、相変わらずいちいち私の胸をときめかせるから困る。
何でこんなに好きなんだろう。
もう2年半ももこんな風に一緒にいるのに…
どうしてまだ大好きなんだろう。
遥臣は私を愛してはくれないのに…
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