一章 絶望の炎

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両親は、シャルロッテの部屋に足を運ぶことは滅多になかった。 たまに扉越しに生きているかどうかを確かめられるくらいだろうか。 それでも垣間見える光に毎回、希望を見出してしまう。 必要最低限のマナーを学ぶようにと投げ込まれる本や紙。 扉越しに受ける授業に必死に食らいついた。 これを完璧に学べば両親は喜んで部屋から出してくれるかもしれない。 もらった本や紙がボロボロになるまで、何度も何度も読み返して練習していた。 ハリエットとイーヴィーの仕草や行動を見様見真似で懸命に覚えようと努力していた。    そんな僅かな希望はいつも打ち砕かれると知っているのに、無駄な期待を寄せては家族で過ごせる日を夢見ていた。 しかし何年経っても、解放は訪れなかった。 シャルロッテは狭い部屋で、ずっと一人で過ごしていた。 そのうち、侍女も何もしなくなって自分のことは全部自分でやった。 世話をしてくれる人はすぐに変わったけど、一人だけとても優しい侍女がいて、その人が生活に必要なことをたくさん教えてくれた。 その侍女もある時、ピタリと部屋を訪れなくなった。 寂しくて、苦しくて、耐えがたい日々……永遠に長い時を過ごしているようだった。 何度本を読んでも、マナーを身につけても、いい子にしていてもハッピーエンドが訪れることはない。  
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