大切なもの

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 彼女との同棲生活。まぁ上手く噛み合っているんじゃないか、そう思っていた僕。でもその歯車から最近、キシみ音が聞こえ始めてきた。 「見てみて、これステキ!」  彼女が促すその先に、流行(はや)りの「飛び出す絵本」の紹介番組が映っていた。それが場の空気を和ますための咄嗟の言葉だったのか、本当に興味を引いていたのか、それは分からない。 「そうだね……」  僕は曖昧に応えた。  このごろ、お互いの空気がギスギスしてきたのには、理由があった。 ──コツコツ二人でお金、貯めて行こうね  合言葉のようにそう言っていた。けれどもなかなかそれは、そのようにはなっては行かない。逆に貯蓄残高は、ジリジリ減っていった。 ──二人で暮らし始めた意味、無いじゃん ──僕のせいじゃないし ──じゃアタシのせい? ──そんなこと言ってないし  物事が全部、悪いほうに転がって行く。お金がない、それってこうも人の心を(すさ)ませるものなのか。十二月も半ばを過ぎると、特にそう思う。残り一枚となったカレンダーを、僕はボンヤリと見つめていた。   「年末、出費が(かさ)むなぁ。お金ないからクリスマスのプレゼント交換、やめようか」  ギクシャクした会話の流れのなかで、そう口にする。 「えっ……」  一瞬、彼女の顔が固まった。 ──あっ、またヤッちまった  それはあと数日でクリスマスという頃のやりとりであった。
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