マリアの幸せケーキ

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 いつもはましま屋の“ましまビッグホールケーキ”を即決で買っている私達である。よって、他のケーキをちゃんと観察したことがなかったのだ。特に値段を見たことがなかったため――まじまじと見つめて仰天したのである。  高い。  小さなショートケーキやカップケーキでさえ、最低で三百円する。家族三人分買ったら九百円プラス税。この時点で予算が足らない。  ホールケーキに関しては論外と言っても過言ではなかった。安いもので三千円。中には五千円近いものまである。とてもじゃないが、今ある私のお小遣いでは買えない。どうして毎月のお小遣いをちゃんと貯めておかなかったんだろう、なんて後悔しても後の祭りである。 「ケーキ買いに来てくれたの?ありがとう」  おばちゃんは、固まった私を見て察したのだろう。苦笑しつつ言ったのである。 「でも、小学生にケーキはちょっと高いと思うわ。お小遣いがなくなっちゃうわよ」 「なくなっちゃうどころか、買えない……」 「あらあら」 「……どうしよう。ケーキ、いっぱい買わないといけないのに。お店がなくなっちゃうのに……!」 「え!?」  私はついに耐えきれなくなり、その場でポロポロと泣き出してしまったのだった。仰天したのはおばちゃんだろう。慌ててカウンターの後ろから出てきて、私はの頭を撫でながら宥めてくれた。そして、私は泣きながら事情を説明したのである。  このお店が、売り上げが伸び悩んでいると聞いたこと。それで、このお店がなくなってしまうらしいと聞いたこと。  自分たちがもっともっとケーキを買えば、お店がなくならずに済むのではと思ったこと――。 「わ、私が……も、もっとたくさんケーキ買ってたら!美味しいって知ってるのに、大好きなのに、誕生日とクリスマスしか買わなかったから!だからお店、なくなっちゃうと思ってぇ……!やだよおおばちゃん、お店、なくなっちゃったらやだぁ!わ、私、これからもこのお店のケーキ買うんだもん。将来、ここの、ケーキ作る人になるんだもん……!」 「麻璃亜ちゃん……」  泣きじゃくる私を見て、おばちゃんはゆっくりと背中をさすってくれたのだった。 「……ありがとう、麻璃亜ちゃん。おばちゃんもね、このお店が大好きだから。麻璃亜ちゃんに、そんなにも好きだって言って貰えて凄く嬉しいわ。毎日ケーキ食べれば良かったって思ってくれるのも」  でもね、と彼女は続ける。 「ケーキって、他のお菓子やご飯とはちょっと違うものなのよね。毎日食べるって人はそもそも少ないと思うの。何故か?……特別な日に、お祝いやご褒美で食べる人が多いからよ。麻璃亜ちゃんとご家族が、誕生日やクリスマスに来るようにね」 「でも、毎日食べてもいいよね?」
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