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マリアの幸せケーキ
これは私、楠本麻璃亜が小学生だったときの話だ。
小さな子どもたちに“将来なりたいものは?”と尋ねると、最初のうちはごくごく身近なお店が挙がることが多いだろう。お菓子屋さん、ジュース屋さん、デパートの店員さん、コンビニの店員さん。中でも、小さな女の子にとって一番華やかに見えるものこそ、みんなの憧れの“ケーキ屋さん”だろう。
私もまさにそんな子供だった。
私や家族の誕生日と、クリスマスだけ食べられるケーキ。たくさんのイチゴが乗っている、オーソドックスなショートケーキを買うのが我が家の通例だった。必ず、駅前の“ましま屋”でケーキを買う。私の誕生日は十二月二日という微妙な日であったが、お父さんとお母さんは私の誕生日とクリスマスを一緒にしたりなどはしなかった。必ず、誕生日とクリスマスをバラバラにお祝いしてくれて、ケーキを買ってくれたものである。
『麻璃亜、ケーキは何にする?』
お父さんは必ず私に尋ねてくれたが、言われるまでもなく私の答えは決まっていた。
『もちろん、イチゴのケーキ!』
真っ白な雪のようなクリームが、帽子のように円の縁を飾っている。その横に、まるでリボンを乗せるようにちょこんちょこんと乗った小さなイチゴたち。
そして、真ん中にはまるで王様のごとくチョコレートのプレートが乗っている。私はそんな、ましま屋のケーキが大好きだったのだ。他のケーキ屋でろくにケーキを食べたことがなかったので比較対象がなかったが、それでも子供心にましま屋のケーキが一番美味しいと確信していた。
舌に乗せた途端に感じる、甘すぎないのにとろけるような味わいのホイップクリーム。
その味を引き立てるようなちょっと酸っぱいイチゴ、ふわふわのスポンジ、大好きなホワイトチョコレートのボード。
だから、私は幼稚園の時に掲げた夢を、周りの“夢”が変わっていく中忠実に守り続けたのだった。
『私、ケーキ屋さんになりたい!ましま屋のケーキ屋さんの、ケーキ職人さんになるの!』
ましま屋のイチゴショートは。
私にとって、家族を結び笑顔をくれる、幸せの魔法であったのだ。
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